ポルトは後半に停滞…最初の交代は中島翔哉
誰も中島翔哉のことを見捨ててはいなかった。
ピッチに入る時にはエスタディオ・ド・ドラゴンに集まった3万6000人から大拍手で送り出され、試合が終わるとセルジオ・コンセイソン監督から熱い抱擁で迎えられた。ポルトは22日のポルトガル1部リーグ第6節でサンタ・クララに2-0の勝利を収め、中島の貢献もその一部であったことが認められた。
サンタ・クララは開幕戦の2失点以来、1つもゴールを許していない堅守を武器にしている。コンセイソン監督も前日記者会見で「特に守備面でよく組織されたチーム」と警戒を口にしていた。
だが、ポルトは5-4-1をベースに守りを固めてくるサンタ・クララに対し、前半からエンジン全開で襲いかかる。両ウィングを絞り気味に立たせ、相手の5バックの間にできるギャップに2トップと合わせて4人が入り込む陣形を作った。
そして両サイドバックに高い位置を取らせながら、普段よりもビルドアップ時にサイドチェンジを増やすことで相手の5-4-1の「4」を走らせ、ブロックのズレを狙ってボールを前進させていく。相手を自陣に押し込んでからは、サイドからのクロスに対しゴール前の混戦やセットプレーも活用しながらチャンスを作っていった。
試合の均衡は15分に敗れる。右サイドからのクロスが一度相手に跳ね返されるも、こぼれ球を拾ったオターヴィオがすぐさま相手ディフェンスラインの背後を取ったダニーロ・ペレイラに浮き球パスを送る。
ペナルティエリアに侵入したキャプテンは深い切り返しで守備を剥がすと、左足で鋭いクロスをゴール前へ。最後はニアサイドにポジションを取っていたゼ・ルイスがヘディングシュートで今季6ゴール目を奪った。
前半の25分までの時点でポルトのボール支配率は72%、シュートもポルトの7本に対しサンタ・クララが0本と文字通り圧倒。40分にはヘスス・コロナのフリーキックを相手選手がクリアしきれずオウンゴールとなり、ポルトは2点のリードを手にして前半を終えた。
しかし、後半になるとややオープンな展開となる。サンタ・クララにボールを握られる時間帯もでき始め、ポルトが抱える後半のペース維持という課題がまたしても顔を出した。そこで流れを引き戻すべく最初の交代カードを使って起用されたのが、中島だった。
積極的なプレーで攻守で見せ場を作り…
背番号10の日本人MFは、前節ポルティモネンセ戦での低調なパフォーマンスが批判の的となり、試合直後にピッチ上でコンセイソン監督から叱責されたことも大きな話題となった。さらに19日のヨーロッパリーグ(EL)のグループリーグ初戦・ヤングボーイズ戦ではベンチ入りするも出番なしに終わっていた。
もはやあの一戦で指揮官の信頼を完全に失ってしまったのではないか。そう思われても仕方ない状況だったが、中島への期待は一寸も欠けていない。流れが悪くなり欠けたところで、パフォーマンスの上がらなかったルイス・ディアスに代わって左サイドに配置された。
するとポルトは息を吹き返した。VARの介入によるオン・フィールド・レビューで一呼吸置けたことも幸いしたが、68分のリスタートにプレッシャーをかけて前線でボールを奪ってゼ・ルイスのビッグチャンスにつなげると、直後のコーナーキックから再びゼ・ルイスがGK強襲のヘディングシュートを放った。
それによって獲得したコーナーキックでダニーロ・ペレイラもシュートを放ち、いい流れの中で中島にも見せ場が訪れる。
69分、またしても相手のビルドアップを寸断してカウンターを仕掛けたポルトは、マテウス・ウリベがペナルティエリア内へ突進する。そこで相手DFと交錯してこぼれたボールを中島が拾い、ドリブルで持ち出して左からゴール前に侵入して左足を振り抜いた。強烈なシュートはGKの正面に飛んでしまったが、立て続けのチャンスにスタジアムが沸いた。
中島のパフォーマンスは、前節ポルティモネンセ戦とは明らかに違うものだった。攻守によりアグレッシブで、判断にも無理がない。ボールを要求してもなかなか思うようにパスを受けられない場面も見られはしたが、右へ左へアグレッシブに動き回ってチャンスを作ろうと奮闘した。
守備面でも切り替えの際に素早く帰陣して相手の動きに合わせてポジションを取り、周りと連動しながら追い込んでいく姿が見られた。87分には味方がボール失った際に、全力のスプリントで2度、3度と相手を追いかけ、最後はファウルで攻撃の芽を摘んだ。これには観客から賛辞の拍手が巻き起こった。
指揮官と交わした抱擁の持つ意味
まだ攻撃時に欲しいタイミングや場所でパスがこなかったり、スペースに走り込んでもボールを持った味方と呼吸が合わなかったり、プレーエリアが被ってしまったり、連係面に課題はある。サンタ・クララ戦では5バックで構える相手に、普段のような中島らしい思い切りのよい仕掛けを披露するタイミングもなかなか見つけられなかった。
それでも守備や戦う姿勢という意味では確実な変化を示し、勝利に貢献することでコンセイソン監督からの期待に応えたと言えるだろう。今は一歩ずつ成長の証を積み上げていくことが重要だ。そして何より、試合終了後に笑顔で交わした抱擁が指揮官からの信頼をよく表していた。
記者席から取材エリアへ降りるエレベーターの中で、地元メディアの記者からも「今日のナカ(中島のポルトガルでの愛称)は先週よりも間違いなくアグレッシブで、いいパフォーマンスだったな」と話しかけられた。まさにチームの外でも中島への見方が変わった証拠だと言えるのではないだろうか。
公式戦6連勝で波に乗るポルトには、幸いなことに次の試合がすぐにやってくる。中2日で再び同じサンタ・クララをホームに迎え、今度はタッサ・ダ・リーガ(リーグカップ)第3ラウンド・グループDの初戦に臨む。ELもあって過密日程が続き、主力に疲労が見え始めたポルトは先発メンバーの大幅な入れ替えがあるかもしれない。
コンセイソン監督も22日の試合が終わった後の記者会見で「もちろん変更の可能性がある」と、次戦に向けて固定しがちだった先発メンバーに変化を加えることを示唆した。コロナが右サイドバックにコンバートされたことでウィングの層は薄くなっており、現状は左の2番手となっている中島にとってカップ戦は大きなチャンスだ。
右サイドでは当初、若手のロマーリオ・バロが積極的に起用されていたが、ポルティモネンセ戦で攻守に完璧なパフォーマンスを披露したオターヴィオがポジションを奪い返して現在のチーム内で最も際立った存在となっている。
左サイドでも逆転のきっかけを作れるか。中島の巻き返しはここから。まずはカップ戦で背番号10の存在を証明するような結果を残したいところだ。
(取材・文:舩木渉【ポルトガル】)
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