左利きの両足使い
左右どちらの足も同じように使える選手は少ない。プロ選手は利き足でないほうもいちおうは使えるけれども、同じようにという人はなかなかいないものだ。また、その必要もないのだと思う。片足が完璧なら、もう一方の足はあまり出番がないからだ。
セルジーニョは左利きだが、右足のキックも非常に上手い。どちらが利き足だかわからないぐらい。両足利きといっていいレベルだが、左利きで右も使えるとなると稀少ではないだろうか。
左利きは古今東西、10人に1人の割合だという。ただ、サッカーのスターに左利きは多い。史上最高クラスのスーパースターでもフェレンツ・プスカシュ(ハンガリー)、ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)、リオネル・メッシ(アルゼンチン)がいる。日本人選手なら中村俊輔や本田圭佑がレフティ。左利きは天才的な選手が多いというイメージすらある。
後天的左利きというタイプもいる。多くは左サイドバックで、左足のキックや左足でボールを持つ必要性から、もともとは右利きだけれども左足を使ったプレーが多くなったというケースである。イタリア代表のレジェンド、パオロ・マルディニがこのタイプだった。三浦知良、宮間あやは右利きでありながら、左足でセットプレーを蹴る両足利き。小野伸二も左足が上手い。
ただし、左利きの両足利きとなると、1960年代の名手ボビー・チャールトンぐらいしか思い浮かばず、むしろ右足をほとんど使わない選手ばかりという印象だ。古くはボルフガング・オベラーツ、ロベルト・リベリーノ、ゲオルゲ・ハジ、マラドーナはもちろん、ラモン・ディアスに至っては「右足は歩くためにある」と言っていた。
結果に直結するキックの精度
J1第26節時点で、セルジーニョは10得点。そのうち6点は利き足の左だが、4点は右足でとっている。第24節ガンバ大阪戦の1-1とする同点弾は、右45度あたりから右足でニアの上へ打ち抜いた強烈なシュートだった。右利きでも難しいコースを躊躇なく狙ってズバリと決めていた。
「父親が、小さいころから右足も使うように指導してくれた。いつか右足を使うこともあるのではないかという考えがあったようです」(セルジーニョ)
名門サントスで19歳のときにプロデビューしたが、約3シーズン54試合に出場して1点しかとっていない。その後、ヴィトーリア、サント・アンドレ、アメリカ・ミネイロに貸し出された。ゴールを量産するようになったのは、鹿島へ移籍する前のアメリカ・ミネイロのとき。公式戦24試合で7得点、いよいよ本領発揮というタイミングで鹿島へやって来たわけだ。
久々に鹿島のテクニカル・ディレクターに就任したジーコが最初に連れてきたブラジル人だった。来日早々、よくわからないうちに「とにかく使ってみろ」と、ジーコから強いプッシュがあったという。これがなかったら、もしかするとセルジーニョのブレイクは少し遅かったかもしれない。というのも、パッと見た感じでは価値がわかりにくいからだ。まあ、見る人が見れば違うのだろうが、そんなに速くなさそうだし、凄いドリブルをするわけでもない。印象としてはかなり地味である。
ただ、キックの精度は抜群だ。結局のところ、アタッカーはキックで結果を出す。ドリブルで3人抜いたからといって自動的に点が入るわけではない。トラップがいかに美しくても、それで1点はもらえない。シュート、アシストという結果はキック(ヘディングもあるが)によってもたらされる。セルジーニョはここという瞬間のシュート、パスが非常に正確で、従ってゴールという目に見える形での貢献ができる。しかも左右の足を問わないのでタイミングも逃さない。
当たり前にやれる選手が点をとる
守備もしっかりやる。これも鹿島にとっては重要なポイントだろう。選手にはそれぞれの武器があるが、その才能で「違い」を作れるボールに触れる時間は1試合で2分間程度だ。残りの88分間はボールのないプレーであり、アタッカーでも守備で穴を空けない働きはできないといけない。チームの歯車としてのハードワークと、試合を決める個人技。鹿島はその両方を選手に求めてきたし、それが最も多くのタイトルを獲ってきた理由の1つだと思う。
第26節、FC東京との1・2位対決でもセルジーニョは2点目をゲットした。前半に1-0とリードした後、FC東京の反撃に耐えている流れで奪った貴重な1点だ。バイタルエリアでパスを受け、左足を振り抜いている。
「ボールをコントロールしたときに良い体勢を作れたので、ミートすれば入るという感覚はあった」(セルジーニョ)
狙った場所に強いボールを蹴れる、だから入る。当たり前すぎて書くのが憚られるぐらいだが、それを当たり前にやれる選手はやはり点をとる。かつて鹿島でもプレーしたビスマルクを「平凡さが非凡」と評した人がいたが、この評価はセルジーニョにも当てはまる。
(取材・文:西部謙司)
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