リバプールがナポリに対して持つ苦手意識
ナポリとリバプールは、どこか奇妙な運命に導かれているような気がする。昨季のチャンピオンズリーグ(CL)・グループリーグでも対戦しており、今季開幕前のプレシーズンマッチでも顔を合わせているからだ。異なる国のクラブ同士が約1年間で5度も対戦することは、なかなかに珍しいことだと言える。
そんな両者のマッチアップだが、毎回苦戦を強いられるのはリバプールだった。昨季のCL・グループリーグでは1勝1敗の成績だったが、とくにアウェイでの試合はナポリに対して“何もできなかった”。スコアこそ0-1と大差なかったが、あれほどリバプールが無力化されてしまったのは、今思えば驚くべきことだ。そして、今季開幕前のプレシーズンマッチでも0-3の完敗を喫している。
もはやリバプールはナポリに対して苦手意識を持っていると言わざるを得ない。そしてそれは、現地時間17日に行われたCL・グループリーグ第1節でも露呈することになった。
プレミアリーグ開幕5試合で全勝と勢いに乗るリバプールは、このナポリ戦でお馴染みの4-3-3を採用。最も同クラブの中で選手の入れ替えが激しいと言える中盤の並びはアンカーにMFファビーニョ、その前にMFジョーダン・ヘンダーソンとMFジェームズ・ミルナーという形になった。
そしてリバプールは、試合開始のホイッスルが鳴り響いた直後から自分たちの色を出した。最終ラインから丁寧にパスを繋いでくるナポリに対し、前線の選手からプレスのスイッチを入れ猛烈な圧力をかけたのだ。全体が連動してラインを高く保ち、ナポリのビルドアップを早い段階で阻止。この狙いは効果的であった。
リバプールの猛烈なプレスに苦しんだナポリは、割と早い段階で長いボールを前線に入れるのだが、同クラブの攻撃的なポジションを担う選手は皆、身長がそれほど高くない。そのため、ロングボールを蹴っても回収されることがほとんどという結果に終わった。リバプールはナポリに長いボールを蹴らせた時点で勝っていたのだ。
活きるサラーとマネのスピード
ただ、もちろんナポリにも攻める時間帯はあった。MFファビアン・ルイスを経由しながらサイドに目一杯展開し、相手SBとCBの間のスペースを確保したところで前線に人数を集める。FWイルビング・ロサーノを頂上に残しながら、その下の空間をFWドリース・メルテンスが自由に使う。また、サイドのFWロレンツォ・インシーニェは時折中へ侵入することで相手のマークをかく乱させ、独力で打開する。こうした様々なパターンを場面によって使い分け、リバプールの守備攻略を試みたのだ。
しかしリバプールの守備陣はさすがの集中力を保って粘り強く対応。ナポリは自分たちにとって有利な状況を作り出そうと徹底して低いクロスを狙ったが、DFフィルジル・ファン・ダイクとDFジョエル・マティプの2CBがこれらをことごとく跳ね返した。
一方、リバプールは攻撃時にあるスペースを有効活用していた。相手の2トップとダブルボランチの間である。そこに降りてくるのがFWロベルト・フィルミーノ。背番号9がこのエリアでボールを持つとよりリバプールの攻撃に怖さが増し、攻めのスピードはよりアップするのだ。
また、フィルミーノがこのエリアを突こうとすることで生まれる効果がもう一つあった。ファビーニョがフリーとなることができたのだ。MFアランとF・ルイスはブラジル人MFへプレスをかけたいのだが、フィルミーノが下がってくるため前に出にくくなっていた。そのため、リバプールはビルドアップ時にファビーニョを経由することに対して何の苦しさもなく、スムーズにボールを入れることができた。この辺りは、ナポリにとっても解決策が見当たらなかったのである。
しかし、ナポリにとって最も恐ろしかったのはやはりカウンターだろう。とくにFWモハメド・サラーとFWサディオ・マネの走力は幾度となくナポリを苦しめた。
DFジオバニ・ディ・ロレンツォ、DFマリオ・ルイも粘り強く対応したが、それを上回るスピードは圧巻。一度相手の背後にボールが出てしまえば競争で負けることはほとんどなく、個人でゴール前まで侵入することができていた。
20分には敵陣でファビーニョがボールを奪うと、これをヘンダーソンが左サイドへ展開。最後はマネがシュートまで持っていった。これはGKアレックス・メレトのセーブに阻まれたが、カウンターの威力が絶大なのはこのシーンからも明らかであった。しかし…。
立ちはだかり続ける男
リバプールは効果的なカウンターを発動するも欲しい先制点を奪うことができていなかった。それはなぜか。最後の最後までこの男の存在感が大きかったからだ。その男こそDFカリドゥ・クリバリだ。
セネガル代表DFはサラーやフィルミーノとの1対1でも冷静に対応。決して飛び込むことをせず、相手の動きに対して少しずつ距離を縮めながら射程圏内に捉えたところで素早く足を出す。サラーらはクリバリを抜こうとするのだが、その前に無力化されてしまった。
DFコスタス・マノラスとの距離感も絶妙で、カバー&チャレンジの判断も的確であった。もちろん左サイドバックのマリオ・ルイのカバーリングも怠らず、いつでもリバプール攻撃陣に対して冷静な守備を見せる。この試合でのクリバリはとくに状態の良さが明らかで、前半だけでなく後半もリバプールの攻撃陣をこれでもかとストップし続けた。
最も素晴らしかったのが読みの鋭さだ。たとえば61分の場面。DFアンドリュー・ロバートソンから中央のフィルミーノにボールが入ると、ブラジル人FWは横を走っていたDFトレント・アレクサンダー=アーノルドを確認。その瞬間を逃さなかったクリバリはフィルミーノに対し、アーノルドのパスコースを切るかのようなスライディングタックルでボールを刈り取ったのだ。ペナルティエリア手前まで侵入されながらもこうした一瞬の判断力でピンチを消し去ることができるのは、さすがというべきであろう。
クリバリはこの試合でタックル成功数2回、インターセプト成功数2回、デュエル勝率90%を記録するなど申し分ない結果を残している。データサイト『Who Scored』内でも7.5という高いレーティングが与えられている。まさに人間山脈だ。
また、クラブ公式サイトによると、クリバリとコンビを組んだマノラスは「僕の傍にはいつもクリバリがいる。彼は世界ナンバーワンだし、素晴らしい時間を過ごしているよ」とセネガル代表DFの存在感の大きさを改めて称賛していた。
アンチェロッティの采配
クリバリの活躍もあり、強力なリバプール攻撃陣を粘り強く無失点に抑えていたナポリは、66分にインシーニェに代えてMFピオトル・ジエリンスキを。その3分後にはロサーノに代えFWフェルナンド・ジョレンテを投入。カルロ・アンチェロッティ監督は動きを見せてきたが、この采配が後の運命を分けることになる。
ジョレンテが最前線に収まったナポリは、攻撃のパターンにより膨らみを持てるようになり、疲れが出てくる時間帯でもリバプール守備陣の手を焼かせた。やはりスペイン人FWにはボールが収まる。一呼吸置きたいナポリにとってジョレンテは、頼もしい存在だった。
そして79分、そのジョレンテが空中戦で潰れボールがF・ルイスに入ると、メルテンスを経由して右のFWホセ・マリア・カジェホンへパス。ボールを受け中に切り込んだ同選手は、対峙したロバートソンに倒されPKを獲得したのだ。これをメルテンスがしっかりと流し込み、ナポリが先制に成功した。
待望の1点を奪ったナポリだが、その後のケアもアンチェロッティ監督は冷静であった。疲れが見えていたF・ルイスを左サイドに回し、途中出場でまだ体力が残っていたジエリンスキを中央へ配置。より真ん中のスペースを与えないための細かな修正であったが、この辺りの判断力は名将たる所以だ。
さらにナポリはリバプールにトドメの一撃を喰らわす。後半AT、敵陣内でメルテンスが粘り強くボールに絡むと、ファン・ダイクが痛恨のパスミス。これに素早く反応したジョレンテが冷静に右足で流し込んで追加点を奪ったのだ。
リバプールはその後もアウェイゴールを奪うことができず、0-2で完敗。鬼門サン・パオロでまたしても勝利を奪うことができなかった。クリバリが牽引するナポリの堅い守備、アンチェロッティ監督の丁寧かつ的確な采配。この試合の運命を分けた理由はこれだけに留まらないだろうが、確かなのは昨季王者リバプールが敗れるのも納得いく内容だったということだ。
(文:小澤祐作)
【了】