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マンチェスター・シティ、CL制覇へ早くも不安が噴出。厳しい懐事情はUEFAへの忖度だ【粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断(4)】

2019/20シーズンは、夏の移籍市場が終了した。この夏も各チームで様々な移籍があったが、それぞれ主要クラブの動きはどうだったのだろうか。今回はプレミアリーグでおなじみの粕谷秀樹氏がマンチェスター・シティの補強を読み解く。(文:粕谷秀樹)

シリーズ:粕谷秀樹のプレミアリーグ補強診断 text by 粕谷秀樹 photo by Getty Images

UEFAに対する忖度か

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マンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラ監督【写真:Getty Images】

【補強診断】不安。要再検査
【疑問点】予期せぬ財政の問題
【キープレーヤー】デブライネ、スターリング
【ノルマ】チャンピオンズリーグ優勝

 マンチェスター・シティのジョゼップ・グアルディオラ監督が、『BBC』(英国公共放送)にこう語った。

「センターバックの補強を見送ったのは、財政的に余裕がなかったからだ。われわれの強化部門は問題なく機能している。ただし、毎シーズンのように巨費を投下するのはさすがに難しい」

 グアルディオラ監督招聘後、4年で900億円以上の投資を図ってきたが、オーナー企業の『アブダビ・ユナイテッド・グループ』(ADUG)はついに躊躇した。DFハリー・マグワイアとの獲得競争でマンチェスター・ユナイテッドに屈している。また、左サイドバックも同様だろう。ベン・チルウェル(レスター)との交渉から早々に降りた背景に財政的な問題があったとは、考えてもみなかった。

 もちろん、移籍金を調達しようとはしていた。ダニーロ(→ユベントス)やファビアン・デルフ(→エヴァートン)などを放出し、78億円ほどの利益を得ている。今夏の補強費は総額およそ170億円で、90億円前後のマイナスとはいえ、テレビ放映権料や広告収入、スポンサーとの契約料などで十分にカバーできる。

 しかし、シティの財政はたびたびUEFAのターゲットにされてきた。他クラブなら許される問題でも、なぜかプレミアリーグのチャンピオンはファイナンシャル・フェアプレーの対象になる。したがって『ADUG』が、「この夏だけは待ってくれ」とグアルディオラ監督にブレーキをかけたのではないだろうか。UEFAに対する忖度だ。

コンパニの退団、ラポルトの長期離脱。本職CBは2人だけ

 ただ、この動きはシティの今シーズンに少なからぬ影響を及ぼすに違いない。ヴァンサン・コンパニがアンデルレヒトのプレーヤー・マネージャーに就任したため、センターバックの選手層は手薄になっていた。ところが補強できず、エメリック・ラポルト、ジョン・ストーンズ、ニコラス・オタメンディの3人体制で開幕を迎える。チャンピオンズリーグとの完全ローテーションは難しい陣容だ。

 しかも4節のブライトン戦で、ラポルトが左ひざを負傷。長期の戦線離脱を余儀なくされた。本職のセンターバックはストーンズとオタメンディのふたりだけ。手薄どころではなくなった。

 カイル・ウォーカーとフェルナンジーニョは対応できるが、ともに本職のセンターバックではなく、ストロングヘッダーに狙われるとひとたまりもない。プレシーズンマッチで首脳陣の高評価を得たエリック・ガルシアはまだ18歳だ。ラポルトの不在をカバーするには至らないだろう。

 『ADUG』のゴーサインが出れば、移籍市場が再開する来年1月にセンターバックを物色する公算が大きい。この夏もリンクされたボーンマスのネイサン・アケーは有力候補のひとりであり、ヨーロッパ全土に強力なネットワークを張り巡らせるシティであれば、アッと驚くような即戦力を獲得するかもしれない。

 イタリアのスポーツサイト『calciomercato』はACミランのアレッシオ・ロマニョーリ、インテル・ミラノのミラン・シュクリニアルを候補者として挙げていた。しかし、市場が再開するまで4か月もある。

ザネの負傷で不安を抱える前線

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レロイ・ザネは負傷により長期離脱を余儀なくされている【写真:Getty Images】

 ダビド・シルバ、ケビン・デブライネ、ベルナルド・シルバ、イルカン・ギュンドアン、フィル・フォデン、フェルナンジーニョ、ロドリ……。中盤は申し分ない。世界最強にして最高の陣容だ。34歳になったダビド・シルバはフル稼働が難しくなったが、デブライネとベルナルド・シルバを擁しているのだから問題はない。ダビド・シルバが「私の後継者」と推薦するフォデンも、シーズンを重ねるごとに成長している。

 しかし、センターバック同様、前線も問題を抱えてしまった。8月2日のコミュニティシールドで、レロイ・ザネが右膝十字靭帯を断裂。全治5~6か月の重傷だった。

 昨シーズン中盤戦以降、ラヒーム・スターリングが覚醒した。自分勝手なプレーは影を潜め、チーム最優先のパスを、シュートを選択する。一向に減らない、むしろ悪質になっている人種差別に関しては、勇気ある発言で世論の支持を集めている。試合中はもちろん、終了後も身振り手振りを交えて説教していたグアルディオラ監督も、「あらゆる面でスケールアップしている」と絶賛した。

 今後のビッグファイトでも活躍し続ければ、スーパースターと呼ばれる日も遠くはない。昨シーズンの負傷から完全復活。開幕早々、魔法を連続するデブライネとともに、スターリングはシティ浮沈のカギを握る重要人物だ。

目指すはヨーロッパのテッペン

 ただ、もうひとりのウイングにはだれを起用するべきか。移籍後2シーズン目を迎えるリヤド・マフレズはシティのゲームプランにフィットできるだろうか。昨シーズンは素早い攻守の切り替えに戸惑いまくっていた。フォデンにもチャンスは与えられるはずだが、18歳の若者にウイングとしての適性はあるのだろうか。やはりザネの負傷欠場は痛い。彼を失ったシティは、縦の推進力が大幅に減退する。

 この夏のシティはアクシデントが相次いだ。財政的な抑制に加え、ラポルトとザネというふたりの主力が負傷による長期欠場を強いられるとは、まったくの想定外だ。グアルディオラ監督も頭を抱えたくなる。しかし、斬新なアイデアで数多くのピンチを切り抜けてきたキャリアをふまえると、現在の苦境を楽しんでいるかもしれない。新戦力のロドリ、ジョアン・カンセロの起用法、アカデミーからの抜擢など、グアルディオラ監督の人選は興味の的だ。

 そして、主要ターゲットをどちらに設定するか──。クラブの悲願でもあるチャンピオンズリーグ優勝か。08-09シーズンのユナイテッド以来となるプレミアリーグ3連覇か。昨シーズンは四兎を追って三兎を得た。逃がした獲物はチャンピオンズリーグだけだ。グアルディオラ監督も、シティでは一度もヨーロッパのテッペンに立っていない。

 やはりビッグイヤーだ。実力差から判断するとプレミアリーグのトップ4は外さない。リバプールに全体のアドバンテージを握られても、チャンピオンズリーグ制覇のための犠牲、と割り切る時期が訪れるかもしれない。ベテラン、中堅、若手の年齢バランスも今シーズンがピークだ。メインディッシュをおいしくいただくためには、あっさりとかたづけるべきメニューもある。見極めが肝心だ。

(文:粕谷秀樹)

【了】

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