W杯予選、勝てばいいとは言うものの…
ワールドカップ予選は通過さえすれば良い。日本代表はベストメンバーをぶつけて容赦なくミャンマーから3ポイントを奪った。腹が減っているライオンなら小動物でも全力で襲うだろう。日本はそのように予選を始めた。
中島翔哉のカットインシュートと南野拓実のヘディングシュートで前半に2点をリードした。チャンスも量産した。しかし後半のスコアは0-0。勝てばいいとは言うものの、このままでいいという内容ではなかった。
直近のパラグアイ戦と同じ先発メンバーで臨み、攻撃のデザインもほぼ同じ。ところが、ミャンマー相手にこれで点をとりきれないとなると、2次予選はともかく3次予選で当たる相手やワールドカップ本大会で対戦する相手には通用しないと考えたほうがいい。つまり、このデザインは再考の必要に迫られている。
日本の攻め込みの形は中央に人が集中しすぎていた。さらに中島、堂安律が下がって起点になっているが、この2人のスタートポジションがあまりに低い。起点作りの仕事は柴崎岳、橋本拳人、あるいはサイドバックやセンターバックに任せ、中島と堂安はもう1つ高い位置でプレーしたほうがいいのではないか。中島については密集へドリブルして奪われない能力があるので何ともいえないところはあるが、堂安のポジションまで下げたのはどうかと思う。
ツッコミどころのある攻撃のデザイン
ガラ空きのサイドを長友佑都、酒井宏樹が使うか、密集に入って大迫勇也、南野、中島、堂安のインプロビゼーション(即興)というアプローチだった。4人のアタッカーが即興で同じ「絵」を描けるのは強みではあるが、あれほどスペースを自ら狭めていて打開するのは難しく、実際にミャンマーに対してもさして有効ではなかった。
サイドを使う場合は、例えば長友と中島の前後関係が完全に入れ替わってしまうが、相手がカウンターに転じたときにこれが常態でいいのかという疑問も残る。また、長友、酒井がクロスボールを蹴る状況を、今後もミャンマー戦のように簡単に作れるとも思えない。
さまざまツッコミどころのある攻撃のデザインであり、ミャンマーに対してこれといった組織的なチャンスメークがほとんどなかったことからも、このままで良いとは到底言えそうもない。
組織と即興のバランス
後半に伊東純也、鈴木武蔵、久保建英を投入して、大迫以外の前線3人を入れ替えた。これでようやくアタッカーが高い位置でプレーし、手持ちぶさただったボランチにも本来の攻撃面での仕事が回ってきた。ただ、それで劇的に良くなったかといえばそうでもなく、個人技と即興的なプレーに終始していた。
プレー原則さえあれば、即興で事足りるチームもある。しかし、日本はおそらくそうではない。2次予選はこれでも問題ないとしても、その先は何ともいえない。
また、オーガニゼーション(組織)は必ずしもインプロビゼーション(即興)の邪魔にもならない。現状の日本は攻撃面で組織がなさすぎるか、組織の作り方が有効ではない。ミャンマー戦ではそれが表れていた。個々の能力は高く、ミャンマーとの個の力量差は歴然だった。それが試合内容とスコアに反映されていないのは、能力を発揮するための器のほうに問題があると考えるのが自然である。
再現性が乏しかった「ジャパンズ・ウェイ」
代表はクラブと違って時間が足りないので、こうした問題は日本に限ったことではなく、少しずつ作り上げていくしかない。ロシアワールドカップでは時間がない中、大雑把にまとめて選手間のコンセンサスを拠り所とする「ジャパンズ・ウェイ」でひとまずの成功を収めたわけだが、その詳細まで詰めていないようだ。
「できる」ことはわかったが、なぜできたかが曖昧なので再現性が乏しいのだろう。できたけれども、作っていない弱みということかもしれない。
この2次予選は何をやっても通過はできる。大きな型はできているので、選手を入れ替えて可能性を探ることもできるし、固定メンバーでより有効な組織を模索してもいい。ただ、3次予選となるとチームがある程度はカッチリと仕上がっていないと苦戦は必至だ。
ミャンマー戦の結果は文句なし。繰り返すが、予選は通過さえすればそれでいい。だが、チームのありようがこのままでいいというわけではなく、これを漫然と繰り返して勝ち続けるのはむしろ危険だと、この試合は示唆していたのではないだろうか。
(文:西部謙司)
【了】