吉田すらも経験の少ない東南アジア
大迫勇也と南野拓実のゴールで2-0と快勝したパラグアイ戦から2日。長時間の移動を経て、10日のミャンマー戦の地・ヤンゴン入りした日本代表は7日夕方、試合会場となるトゥウンナ・スタジアム横のピッチで現地初練習を行った。
ここから2022年カタールワールドカップへの一歩を踏み出す森保ジャパンだが、過去の予選スタートは毎回のように苦戦を強いられてきた。初戦の難しさに加え、未知なるアウェイという環境が襲い掛かる。練習場のピッチは芝生がところどころ剥げ、地盤が柔らかい。
隣には畑があり、選手たちの更衣室はおろか、シャワーもない。さらに練習開始30分後から猛烈なスコールが降り、20分間はバケツの水をひっくり返したような豪雨に。「視界が悪くなりますよね。ボールが急に伸びたりするし、逆に止まったりもするし」と練習を最後まで続行した遠藤航は困惑の表情を浮かべた。
隣のスタジアムは多少なりとも芝生の状態はいいと見られるが、試合本番でスコールが来る可能性は非常に高い。そこは日本代表選手たちを大いに悩ませるだろう。
「僕はアンダー(世代別代表)の時は東南アジアで戦ったことがない。『まあこんなもんかな』と思っています」とキャプテン・吉田麻也が言うように、主力のベテラン勢は東南アジアでの試合経験が少ない。長友佑都のいた2008年北京五輪代表がベトナム、酒井宏樹と大迫がいた2012年ロンドン五輪代表がマレーシアで予選を戦っているが、ここまで東南アジアの過酷さを感じることはなかっただろう。普段、欧州を主戦場にしている面々にしてみれば、今回のタフな環境は心理的負担にもなりかねない。
そんな彼らとは比較にならないほど多くの東南アジアの経験値を持っているのが、久保建英だ。まず今回のミャンマー戦が開催されるスタジアムでは今年3月のAFC U-23選手権予選でマカオ、東ティモール、ミャンマーと3試合を消化したばかり。当時は乾季だっただめ、天候やピッチ条件は全く異なるものの、「雨が降った場合のスタジアムの動画もあるんで、どんなもんなのかは想像しています」と具体的なイメージを持っているという。
「経験が答えを導き出してくれる」(久保)
実際、昨年10月にインドネシアで開催されたAFC U-19選手権では、準々決勝・インドネシア戦を凄まじいスコールの中、U-20ワールドカップ出場の切符を獲得した経験もある。この時は後半から滝のような豪雨となり、試合をコントロールすること自体、困難な状況に陥ったが、久保は終始、冷静さで、宮代大聖の2点目をアシストしてみせた。
「暑いよりは(豪雨の方が)いいんで、ポジティブに捉えられたらいいと思います。プレーの判断も状況に応じてになりますけど、経験が答えを導き出してくれるんじゃないかな」と本人も約1年前の壮絶なゲームを脳裏に焼き付けている様子だった。
劣悪なピッチとスコールの両方を味わったのはこれら2つの大会だけではない。森山佳郎監督率いるU-17日本代表時代にはインドネシアを筆頭にタイやインドなどにも赴き、数々の困難に直面してきた。
久保とともに2015年春のインドネシア遠征に参加した瀬古歩夢も「もうスコールがヤバくて、ピッチがベチャベチャ。試合ができるかどうかっていうくらいのグラウンドだった。森山監督は『そういう中でもできるやつ、戦えるやつを使う』と口を酸っぱくして言っていました」と述懐したことがある。
大半の選手が弱音を吐く中、久保は最後まで確実にボールコントロールできた数少ない選手だったという。彼はこうした経験から、どんな苦境に陥っても普段通りの技術を発揮して、試合を組み立てる術を体に叩き込んでいるのだ。
そろそろゴールが見たい
こうした強みは、A代表の一員として初めて挑むワールドカップ予選のミャンマー戦でも大いに生かされるはずだ。パラグアイ戦後に「守備の部分ではまだまだ強さが足りない」と18歳の若武者の課題を口にした森保一監督だけに、いきなり久保をスタメン起用する可能性は低いかもしれない。が、パラグアイ戦や6月のコパ・アメリカのチリ戦のように、ジョーカーとしても十分な働きを見せられるのが彼のよさ。
キビキビとした動きで敵をかく乱し、高速ドリブルでフィニッシュまで持ち込むようなプレーも期待できそうだ。それをピッチ環境や気象条件に関係なく示せる選手がいるというのは、チームにとって大きな安心材料と言っていい。
願わくば、カタールへと続く最初のゲームでゴールという結果がほしいところ。2016年のAFC U-16選手権、2018年のAFC U-19選手権と久保は2カテゴリーの年代別代表のアジア最終予選初戦をゴールからスタートさせた実績がある。そのいずれも直接フリーキックで奪ったものだった点は特筆に値する。
パラグアイ戦でも数回のフリーキックのチャンスがありながら枠に飛ばすことができなかったため、本人も「今度こそは」という思いを強めているに違いない。自陣に引いて守ってくるであろうミャンマーのような相手にはセットプレーからの得点が間違いなく有効になる。それを最年少アタッカーが奪ってくれれば、チームがどれだけ助かるか分からない。
「点が入ればガラッと(自分たちの流れが)変わるんじゃないかと思います」と目を輝かせる久保建英は果たして日本の切り札になれるのか。ワールドカップ予選デビューとなるミャンマー戦での一挙手一投足が今から非常に興味深い。
(取材・文:元川悦子【ヤンゴン】)
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