PSG戦以降メッキが剥がれたユナイテッド
はてさてどうしたものだろうか──。
4節を終わって1勝2分1敗。昨シーズンは6位なのだから、別に驚くようなデータではない。実は筆者の星勘定も1勝3分。ホームのクリスタル・パレス戦は勝つだろうけど、そのほか3試合は引き分けるだろうな、と予想していた。開幕節でチェルシーを4-0で叩きのめしたときはSNSでちょっとだけ調子に乗ったものの、プレミアリーグがそんなに甘くないことは百も承知している。
結局、進歩していない、代わり映えしない。ジョゼ・モウリーニョの退屈すぎる管理型フットボールから解放された瞬間、マンチェスター・ユナイテッドは輝いた。公式戦8連勝・10戦無敗という快進撃を見せた。このデータがフロックとは思えない。単なる一時しのぎが二か月以上も続くはずがないからだ。パリ・サンジェルマンが他クラブに敬意を払えない超失礼なボンクラだとしても、1st.legの0-2を2nd.legで3-1(アウェイゴールでベスト8進出)と大逆転したのだから、ユナイテッドの底力はそこそこ備わっていたはずだ。
しかし、パリSG戦で満足したのか、それともエネルギーを使い果たしたのか。その後の公式戦は今シーズンも含め3勝4分9敗。メッキがすっかり剥げてしまった。
プレシーズンマッチを無敗で終え、意気揚々と挑んだ今シーズンも、開幕節でチェルシーを4-0と葬った後は、ウォルヴァーハンプトンに引き分け、クリスタル・パレスに1-2で屈し、続く4節も1-1のドロー。サウサンプトンのケビン・ダンソが退場になり、残り約20分を11人対10人で闘えたにもかかわらず、満足な決定機さえつかめなかった。
ウォルヴァーハンプトン戦とクリスタル・パレス戦でPKを決めていれば……。たしかにそのとおりだ。しかし、それは結果論であり、対戦相手のゲームプランが効を奏し、ユナイテッドが無策のまま時間を浪費している、と考えられる。
パフォーマンスはポグバの匙加減がすべて
アントニー・マルシャル、マーカス・ラシュフォード、ダニエル・ジェームズ、メイソン・グリーンウッド。前線はスター候補生がズラリとそろっている。ロメル・ルカクとアレクシス・サンチェスのインテル・ミラノ移籍は大きなダメージだが、両名ともユナイテッドで働く気がなかったのだから、留めておいても邪魔なだけだ。高給取りの割には数字で貢献できなかった。
いや、去っていった選手をとやかく言っても意味はない。現状に着目すべきである。将来性豊かな前線のタレントを活かせるのがポール・ポグバだけで、彼が封じられると攻め手がない。しかもポグバもルカクやサンチェス同様、ユナイテッドで働く気がないということが大問題だ。
ユナイテッドに骨を埋める気がなかったとしても、契約している以上は全力を尽くすのがプロフェッショナルだ。底知れぬ才能の一端しか発揮していないのだろうが、大勝を収めたチェルシー戦はもちろん、ウォルヴァーハンプトン戦もクリスタル・パレス戦もサウサンプトン戦も、ポグバが絡むと何かが起こりそうな気配が漂う。自陣でボールロストしても、攻守を切り替えなくても、ユナイテッドのパフォーマンスはポグバの匙加減がすべてだ。
この、悪しき現象はいまに始まったことではなく、解決すべき課題としてユナイテッドに突きつけられていた。厳しく接したモウリーニョとは溝が深まるばかりだった。解放したオーレ・グンナー・スールシャールとも良好な関係ではない。監督が気を遣いすぎているのか、ポグバが無作法なのか。彼の背後には、強欲なエージェントのミーノ・ライオラがうごめいている。
EL出場権獲得すら危うい?
昨シーズンの中盤戦以降、対戦相手のユナイテッド対策は共通している。ポグバをブッ潰せ、だ。イエローカードをもらわないレベルのチャージで止めたり、二重三重のマークで襲いかかったり、各クラブとも十分に研究している。4節のサウサンプトン戦でも中盤のピエール=エミール・ホイビェアが、オリオル・ロメウが、またあるときはトップのダニー・イングスまでもが、ポグバを封じるためにからだをはった。
こうしたプランに、ユナイテッドは対応できていない。ポグバが典型的な気分屋で、試合中に『ジキルとハイド』を演じる迷優だとしても、この男にかかる負担が重すぎる。ファン・マタが入ると多少は攻撃の幅が広がるものの、ポグバが消された際の即効薬とはいえない。
スールシャール監督は「数多くのシュートを打っても意味がない。精度に磨きをかけなければ」と語ったが、ポイントがややズレている。独力で決められる9番タイプを補強しなかったのだから、ポグバが罠にはまって動けなくなったときの打開策を、前線のスピードを活かすチーム戦術を、どのようにして構築すべきかが〈how to win〉ではないだろうか。
インターナショナルウィーク明けの5節は、ホームに難敵レスターを迎え撃つ。ジェームズ・マディソン、ユーリ・ティーレマンス、ハザム・チョウダリーといった有能なタレントを中盤に擁し、トップのジェームズ・ヴァーディーは32歳になったいまも20代前半の若手のようにみずみずしい。ゲームプランの練度もユナイテッドを上まわっている。かなり厄介な相手だ。3節のクリスタル・パレス戦に続き、本拠オールド・トラッフォードで恥をかくリスクは十分にある。
開幕節のチェルシー戦はともかく、2~4節は周囲の期待を裏切るばかりだった。トップ6のなかでは最低の試合内容で、チャンピオンズリーグ(CL)の出場権奪回はおろか、ヨーロッパリーグ(EL)さえ首を傾げたくなるパフォーマンスだった。このままでは、スールシャール体制も長くは続かないだろう。内容が伴っていなければ、人事に影響力を持つサー・アレックス・ファーガソンもフォローできない。オーナーのグレイザー・ファミリーは辛抱強くない。
この7年でデイビッド・モイーズ、ルイ・ファンハール、モウリーニョとつないできたが、スールシャールも世間を納得させるには至っていない。レスター戦の後は、ウェストハム、アーセナル、ニューカッスル、そして9節はホームのリバプール戦だ。昨シーズン、モウリーニョはアウェイとはいえ、ユルゲン・クロップ監督のチームに成す術なく敗れ、その二日後に解雇されている。
(文:粕谷秀樹)
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