監督に直談判して実現した早期合流
「成長するためのクラブを選びました。目標は2ケタ得点。初心に戻る気持ちで、右サイドでもう1回勝負したいと思っています」
オランダ1部の名門・PSVアイントホーフェン移籍が決まり、8月31日に記者会見にのぞんだ堂安律は、真新しい25番の赤いユニフォームを手にしつつ、希望と意欲に満ち溢れた表情で写真に収まっていた。
それからわすか2日後の9月2日。彼の姿は茨城県鹿嶋市のグラウンドにあった。キャプテン・吉田麻也やベテラン・長友佑都ら12人のメンバーとともに、5日のパラグアイ戦に向けた日本代表合宿に初日から参加したのだ。
「当初は試合(1日のRKCアールワイク戦)を見てから日本に戻ってくる予定だったんですけど、手続きの問題で試合に出られなかったので、(マルク・ファン・ボメル)監督と話をさせてもらった。これは自分の勝手なアイディアだったんですけど、1日でも早く帰って僕のコンディションがよくなった方がPSVのためにもいいと思ったんで。監督も理解してくれてよかったです」と堂安は直談判して前倒し合流したという。
それだけ代表に強い思い入れがあるということ。発足からちょうど1年が経過した森保ジャパンで当初から2列目のレギュラーに位置付けられてきた彼だが、ここへきて同じ右サイドの伊東純也が欧州で急成長。トップ下と右をこなす久保建英もスペイン1部デビューを飾るなど、ウカウカしてはいられない状況になってきた。
堂安自身が感じる課題と教訓
カタールワールドカップへの第一歩となる10日のミャンマー戦で確実にスタメンに名を連ね、攻撃陣のキーマンに君臨し続けるためにも、コンディションをベストに近いところまで引き上げないといけない。8月10日から公式戦に出ていない分、実戦感覚の不足は否めないが、「試合になれば関係ない」と周囲の懸念を一蹴。パラグアイ戦からフル稼働していくつもりでいる。
そんな堂安に今、一番求められているのがゴールという結果だ。というのも、1月のアジアカップ準々決勝・ベトナム戦を最後に得点を奪えていないからだ。当時所属していたフローニンヘンでもスランプに陥り、空回りが続いた。21歳になったばかりの若武者は結果が出なければ焦り、「俺が俺が」というエゴを前面に押し出しすぎてしまう。そういったメンタル面の問題がマイナスに作用し、より得点が奪えなくなるという悪循環に陥ったのだ。
「アジアカップで固められた相手を中央で崩そうと思っても難しいところがあった。そういうときは気を利かせてサイド攻撃だったり、ミドルシュートだったりが有効になってくる。キレイな形じゃなくてもゴールラインを割れば1点は1点なので、そういう決定力を身に着けないといけない。オランダの昨シーズンも決めきるところを決めきれないという課題が出たので、ワールドカップ予選にもその教訓を生かしていけたらなと思います」と本人も自分自身を冷静に客観視し、何が足りないのかを理解したうえで、今回の代表シリーズに戻ってきたという。
新たなバリエーションへのチャレンジ
ドリブル突破や局面打開力に秀でている分、どうしても「自分でゴールをこじ開けてやろう」という意識が強くなりがちだ。が、周りにお膳立てしてもらって最後の最後でフィニッシュに行くようなアイディアやコンビネーションもこれまで以上に必要になる。その重要性も堂安はしみじみと感じているようだ。
「周りから点を取らせてもらう動きも大事になるし、『ごっつぁんゴール』もあっていい。そこは自分の中では新しいトライですけど、積極的にやっていきたい」と新たなバリエーションを作ることにもチャレンジしていく覚悟だ。
そうやって自らの打開でも、周囲のお膳立てでもゴールを取れるアタッカーへと変貌できれば、ここまでの足踏み状態から抜け出せる。さしあたってパラグアイ戦でできるだけ長い時間ピッチに立ち、国際Aマッチ7試合ぶりの得点をもぎ取ることが肝心だ。そこで明確な結果を出せれば、森保監督からの信頼もより深まり、ワールドカップ予選でキーマンに据えられる確率も高まる。その代表での高パフォーマンスがPSVでの評価にもつながっていくだろう。
今の日本代表にビッグクラブでプレーする選手はいない
PSVは今月からオランダ・エールディビジとUEFAヨーロッパリーグを並行して戦うことになる。スポルティング・リスボン、ローゼンボリ、リンツと同組で、堂安の出場チャンスも広がるだろう。そこで定位置を確保し、移籍会見で目標に掲げた2ケタゴールを現実にすることができれば、彼の未来は間違いなく明るいはずだ。
「(今回の日本代表メンバーのうち19人が海外組だと言っても)ビッグクラブでプレーしている選手がいるかというと、一人もいない。そこは冷静に見ないといけない」と先輩・長友は2日の練習後、厳しい言葉を残した。それは自身はもちろんのこと、堂安ら若手にも向けられている言葉だ。
そんな先輩の叱咤激励に応え、PSVからもう一段階上のステップに踏み出すためにも、21歳のレフティーは今回のワールドカップ予選で目に見えるインパクトを残し続ける必要がある。かつてガンバ大阪ジュニアユースの先輩・本田圭佑が大舞台で必ずと言っていいほど大仕事をやってのけたように、堂安律もそれを上回る勝負強さと牽引力を示すこと。それを今こそ、強く求めたい。
(取材・文:元川悦子【鹿嶋】)
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