第1節からの改善を見せた冨安
開幕戦のエラス・ヴェローナ戦では上々のデビュー。攻守両面にわたって質の高いプレーを展開し、複数の地元紙の採点やクラブ主催のファン投票でチーム最高の評価を得た。そんな冨安健洋だったが、前節は反省で終わっていた。
「中に入りすぎた。(リッカルド・)オルソリーニを孤立させてしまった。意識的に外を使い分けないといけない」
相手チームがボールを保持しているときは4バックとして右サイドの守備を受け持ち、自軍が攻撃している際は3バック状に最後部へ残る。アウトサイドから少し中に入った位置でボールに触り、組み立てに参加。しかしその分、右サイドに開くオルソリーニとの連係が足りなかったと試合を振り返っていた。
本来はセンターバックであり、左のミチェル・ダイクスと比較すると戦術上の役割も守備に振られている。攻撃面で見せ場を創出できなくても責められないところだろう。だが冨安はホーム初先発となる30日のSPAL戦で、さらなる改善を見せてきたのである。
前にいるオルソリーニにボールが入るや否や、アウトサイドをタイミングよく上がって積極的に攻撃参加した。相手は3バック、とりわけアウトサイドのイゴールは対面のオルソリーニも警戒しなければならない。サイドで数的優位が作れる時には、最終ラインへのステイを解いて果敢に攻め上がっていた。
まずは7分、パスを交換しつつスルスルっとポジションを上げ、前方のスペースへ飛び出す。そして最前線へ出ると、相手DFラインとGKとの間に鋭いグラウンダーのクロスを入れる。相手DFはなんとかクリアに成功し、ピンチを逃れていた。
冨安のプレーに会場も沸く
25分には、サイドバックどころかウイングのような個人技の仕掛けと突破を披露した。敵陣深く攻め上がり、2人の選手に挟まれた。すると冨安は、持ち味とする両足の技術の高さを発揮。右足、左足インサイドを使った丁寧なボールタッチで瞬時に方向を変える華麗なダブルタッチで、一気に2人を置き去りに。
さらに一人をぬこうとして最終的にCKを獲得すると、そのチャンスでヘディングシュートを頭で合わせてゴール左隅を狙った。ボールはわずかにゴールの外にそれるが、観客を大いに湧かせていた。
守備においては、果敢に前に出てインターセプトを敢行する。ボールを高い位置で回収し、味方への攻撃へ積極的に繋げる。31分に長いボールのクリアを狙って後逸した以外、ミスらしいミスはほとんどなし。ファウルを犯さずにボールを回収し、相手プレスを掛けられても平然とパスを回し、クイックなモーションで正確なミドルパスも蹴ってくる。そうなるとレナート・ダッラーラの観客は、冨安がボールに触れるたびに沸き立つようになった。
後半はさらに圧巻だった。9分、自陣のゴールエリア付近で体をぶつけながらボールを奪い、そのままカウンターで攻め上がっていく。最前線に出た格好となったが、味方がフォローで上がって来れていない。その時、彼は自力で突破を図った。マークについたベテランのDFフェリペ。その背後にボールを流してワンタッチで抜き、前線までボールを運んだのち味方にパスを出した。
17分にはオルソリーニにボールを預けると、自ら裏に上がってスルーパスを受けてクロス。さらに前線に走って囮となるようなことまでやり、相手ディフェンダーを釣り出してオルソリーニのシュートチャンスを創出している。
試合自体はボローニャが圧倒的に押していたものの、SPALのGKエトリト・ベリシャが再三の好セーブを連発して均衡を保っていた。シニシャ・ミハイロビッチ監督はワントップだったFWを2枚にして攻めるが、冨安は終盤にさらなるアグレッシブなプレーを敢行した。
「目下今シーズンで一番成功した補強」
無得点のままで迎えた後半のアディショナルタイム。相手のハイボールを中盤の高い位置で競り合い、ものにした後は、相手のプレッシャーに耐えながら縦にパスを出した。これがロベルト・ソリアーノを経由してFWサンタンデールに通り、シュートを流し込んだ。決勝弾、そして攻撃の起点となる活躍かと思いきや、無情にも旗が上がってオフサイドとなってしまった。
しかし勢いに乗ったボローニャはその直後、ソリアーノのヘディングシュートで勝利。ホーム初試合で、冨安のプレゼンスは勝利につながった。
セリエAの公式スタッツによれば、トップスピードは両チーム合わせて最速の32.95km/hを記録。冨安にやられた対面のイゴールは、後半の途中で下げられていた。今節はよりアウトサイドとしてのプレーが目立ったが、それでも相当なインパクトを見るものに与えた。「目下今シーズンで一番成功した補強」「この開幕2節で最大最高の発見」といった評判もファンの間からは上がっている。
日本代表ではセンターバック。同ポジションでの成長を望む方には不満かもしれないが、冨安の高い潜在能力とアグレッシブな姿勢はサイドでもサプライズを呼んでいる。パオロ・マルディーニやアレッサンドロ・ネスタといった名センターバックも、サイドバックを経験していた。そんな成長につながっていくのならば、決して悪いことではないだろう。
闘病を続けるシニシャ・ミハイロビッチ監督(この日も試合を指揮)を一丸で支えようという雰囲気で盛り上がる今季のボローニャ。その中にあって冨安は、序盤戦の主役の一人としてファンの間で認知され始めている。試合後、ゴール裏に掲げられていた日の丸の旗を発見し、冨安は駆け寄ってスタンドへユニフォームを投げ入れていた。
(取材・文:神尾光臣【イタリア】)
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