最年少記録を次々と塗り替える男
アヤックスは1994/95にCLを制覇。翌シーズンは決勝で、その次のシーズンは準決勝で、ともにユベントスに敗れた。それから22年。アヤックスの中心には、その当時まだ生まれてすらいなかった世代の選手たちが躍動した。その1人がマタイス・デリフトである。
デリフトは1999年にオランダ西部の町・ライデルドルプで誕生。5歳のときに始めたのはテニスだったという。6歳でサッカーを始めると、9歳のときにアヤックスにスカウトされた。
アヤックスの育成組織に加わったデリフトは、カテゴリーをあげていく。そして16/17シーズン、17歳の誕生日を迎えたばかりのデリフトは、トップチームでデビュー。さらに、UEFAヨーロッパリーグ(EL)では、7試合に先発出場して決勝進出に貢献。17歳285日でマンチェスター・ユナイテッドとのファイナルにフル出場したデリフトは、欧州主要大会の決勝戦における最年少出場記録を更新した。
チームの中心選手へと成長したデリフトは、17/18シーズン終盤に前十字靱帯断裂の大けがを負ったヨエル・フェルトマンに代わり、アヤックスの主将に就任。これもまたクラブの最年少記録になったという。
デリフトに加え、ユース出身で2歳上のMFドニー・ファン・デベークとMFフレンキー・デヨング、経験豊富なMFダレイ・ブリントやFWクラース・ヤン・フンテラールを擁した18/19シーズン、アヤックスは世界中の注目を集めた。
デリフトはUEFAチャンピオンズリーグ(CL)の決勝トーナメントで2ゴールを決めた。1つ目は準々決勝のユベントス戦。2戦合計2-2、このままだと延長戦へと突入する2ndレグの67分にヘディングで決勝点を決めた。CKにユベントスは2人の選手が競り合ったが、デリフトはその上から豪快に叩き込んだ。
2度目は準決勝トッテナム戦2ndレグ。アヤックスは5分、またもCKからデリフトがヘディングでゴールを決める。マークにつく相手選手を振り切ったデリフトは、ゴール前のゾーンを守るデレ・アリとの競り合いを制して、ボールを頭で合わせた。
トッテナム戦ではその後、ルーカス・モウラのハットトリックで敗退となったが、1-0で1stレグを終えたアヤックスは難しい試合の入りが予想される中での先制点。難しい状況でチームを救う、頼れる主将の得点だった。
そのプレースタイルとは?
今夏、デリフトは移籍金7500万ユーロ(約92億円)でユベントスに加入。チームでは、ベテランのジョルジョ・キエッリーニとレオナルド・ボヌッチ、25歳のダニエレ・ルガーニ、サッスオーロから加入した21歳のメリフ・デミラルとポジションを争うことになる。
昨季のCLでは出場全チーム最多の12本のヘディングシュートを記録。クリスティアーノ・ロナウドが10本、ハリー・ケインが9本、フェルナンド・ジョレンテが8本と、FWが上位に並ぶ中で、トップの数字を残した。
センターバックの選手がヘディングシュートを打つことができるのは、ほとんどの場合セットプレーに限られる。前線の選手よりもシュートを打つチャンスが少ないデリフトが最多のヘディングシュートを記録するということが、彼のヘディングの強さを表している。
身長だけで、ヘディングの強さは決まらない。元オーストラリア代表のティム・ケーヒルは180cmという身長ながら、圧倒的な競り合いの強さを誇っていた。189cmと、現代のセンターバックとしては決して大きいとは言えない、デリフトの空中戦の強さには理由がある。
スローモーションでしか分からないかもしれないが、デリフトは相手よりもわずかに早く跳んでいる。相手より早く跳ぶことでボールが来る空間を先に支配してしまう。すると、相手はボールに寄せることができず、デリフトはフリーの状態で強いヘディングを打つことができる。
早く跳んでしまえば、早く着地するように思えるが、重力は等速ではなく加速なので、空中で“ほぼ止まっている”ような状態が一瞬存在する。相手より先に跳ぶことで空間を支配し、競り合いに勝つ。デリフトのヘディングにはフィジカルだけではなく、技術がつまっている。
(文:編集部)
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