サガン鳥栖で現役引退したフェルナンド・トーレス【写真:Getty Images】
稀代のストライカーがスパイクを脱いだ。23日に行われた明治安田生命J1リーグ第24節で、サガン鳥栖のFWフェルナンド・トーレスが現役最後の試合に臨んだ。
ヴィッセル神戸と対戦した鳥栖は1-6でまさかの大敗。勝ってトーレスを送り出すことはできなかった。当の本人も「結果は素晴らしいとは言えない」と認める。
ただ、歩んできたキャリアには一片の悔いもない。アトレティコ・マドリー、リバプール、チェルシー、ミランといった世界屈指のビッグクラブで数々のタイトルを勝ち取り、スペイン代表として世界の頂点を極めた日々を振り返り、「自分がやってきたこと全てを誇りに思う」と胸を張った。
神戸戦後に行われた引退セレモニーには妻や3人の子供たちとともに登場し、ともにプレーしたかつてのチームメイトたちからのメッセージや、栄光に彩られたキャリアを振り返るビデオも流された。終了後には盟友アンドレス・イニエスタやダビド・ビジャと抱擁を交わし、涙ぐむ場面もあった。
「試合後のセレモニーは感動的だった。スティーブン・ジェラードも素晴らしいメッセージを送ってくれて感激した。僕がともにプレーした中でも最も大事な選手の1人だ。最初のビデオで心動かされ、キャリアで到達した高みを思い出し、たくさんのチームや代表でプレーできたことや、数々のトロフィーを獲得できた恵まれたサッカー人生を振り返ることができた。
そしてビジャやイニエスタといる時には、同じように感動してほとんど泣いていた。いくつかの場面で涙をこらえるのが難しいこともあった。でも、今僕は悲しくない。幸せを感じている」
常に強烈なプレッシャーに晒されながら、肉体的にも精神的にも限界まで己を追い込んで、最高の状態を保つために感覚を研ぎ澄ますための鍛錬の日々は終わる。20年近くそれが当たり前だったトーレスにとって、まだその実感はなく、違和感もあるかもしれない。
鳥栖の象徴となった元スペイン代表ストライカーは「もしかしたら数日後に『終わってしまったんだ。僕のフットボールとの全てが終わる時なんだ』と気づくかもしれないね」と言う。だが、それでも「僕はとてもいい気分だし、幸せだ。後悔? 全くないよ」と晴れ晴れした表情で語った。
これからは選手としてではなく、1人のフェルナンド・トーレスという人間としてサッカー界の発展に努める。もちろん鳥栖との関係も続いていく。世界中のサッカーファンを虜にした“エル・ニーニョ”の第2の人生に幸あれ。
(取材・文:舩木渉)
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