機能不全に陥ったリバプール
レアル・マドリーが3度、バルセロナとアトレティコ・マドリーが1度ずつと、5年連続でスペイン勢が優勝しているUEFAスーパーカップだが、今年はチャンピオンズリーグ王者のリバプールと、ヨーロッパリーグ王者のチェルシーが対戦。史上初めてイングランド勢同士の対戦で、覇権を争うことになった。
両チームともに直近の週末でプレミアリーグ開幕節を戦っている。リバプールは昇格組のノリッジを相手に4-1と快勝。しかし、この試合でふくらはぎを痛めて途中交代したアリソンは、数週間の離脱とアナウンスされた。この試合では先週加入が発表されたばかりのアドリアンがスターティングラインナップに名を連ねた。
一方のチェルシーは開幕節でマンチェスター・ユナイテッドと対戦したが、0-4と大敗。エデン・アザールの退団、UEFAの補強禁止処分により、新加入選手が制限された不安を露呈する結果となった。
チェルシーはジョルジーニョをアンカー、怪我が不安視されたエンゴロ・カンテとマテオ・コバチッチがトライアングルを構成。マンチェスター・ユナイテッド戦で採用した4-2-3-1ではなく、中盤を逆三角形にした4-3-3を採用した。
リバプールはロベルト・フィルミーノがベンチスタート。サディオ・マネが中央に回り、左ウイングにはアレックス・オックスレイド=チェンバレンが起用された。
昨季のシーズン終盤にフィルミーノが離脱した際に、スカッドを試行錯誤していた。マネやジョルジニオ・ワイナルドゥムがフィルミーノの『9番』の役割を担ったが、どちらもうまくはいかず。そして、この日のマネをCF、オックスレイド=チェンバレンを左ウイングで起用したものの、明らかに機能不全に陥っていた。
優勢に試合を進めたチェルシー
試合開始当初こそ、リバプールのプレッシングに対してビルドアップで苦労していたチェルシーだったが、敵陣でボールを持つ機会も増えて、徐々にチェルシーが試合の主導権を握った。
開始当初は自陣からのビルドアップを試みていたが、リバプールのプレッシングに苦戦していると判断すると、方針を転換。GKケパからFWオリビエ・ジルーへのロングボールを増やし、こぼれ球をカンテが回収。そこにFWクリスティアン・プリシッチやFWペドロがドリブルからチャンスを演出していった。
22分にはバイタルエリアでボールを持ったFWペドロがジルーとのワンツーで抜け出し左足でシュートを放ったが、惜しくもボールはクロスバーに直撃。さらにペドロは32分に、コバチッチにスルーパスを送ってシュートを演出している。
36分、ルーズボールを得たカンテが敵陣でプリシッチに預けると、右サイドに向かって斜めにボールを運ぶ。左に向かって走るジルーにラストパスを出すと、ジルーが左足を一閃。ボールはGKアドリアンの左足にわずか届かず、ゴールマウスへと吸い込まれた。
40分には左サイドでボールを受けたプリシッチが中に切り込んでニアサイドをぶち抜く。ボールはゴールネットを揺らしたが、プリシッチがボールを受けた位置がオフサイドとなり、ゴールは認められなかった。この時間帯、チェルシーは立て続けにチャンスを作った。
流れを一変させたフィルミーノ
チェルシーにペースを奪われたリバプールは、後半開始からフィルミーノを投入。左にマネ、右にサラー、中央にフィルミーノと、いつもの3人をいつもの位置に配した。
48分、サラーのクロスがリフレクションされたところをファビーニョが相手GKとDFの間にロブパスを送る。これに反応したフィルミーノが触り、マネが押し込んでスコアを振り出しに戻した。
後半のリバプールはまさに「水を得た魚」。サラーとマネが自由に動く魚で、ファビーニョは「水を運ぶ人」。フィルミーノという淀みない水を得たリバプールは後半、立て続けにチェルシーゴールへと襲い掛かった。
95分、フィルミーノがマネからのスルーパスを左サイドで受ける。フィルミーノはグラウンダーで折り返すとゴールに向かって走るマネがボールを受けてダイレクトでシュート。これが決まり、リバプールが勝ち越しに成功した。
しかし、試合はここで終わりではなかった。右サイドからペドロのクロスにGKアドリアンが飛び出す。しかし、FWエイブラハムが一瞬先にボールに触り、アドリアンがエイブラハムを倒してしまいPKの判定。キッカーを務めたジョルジーニョがこれを冷静に沈めて、101分に試合は再び振り出しに戻った。
タイトル獲得もオプションを得られず
両チームともに静かな延長後半を過ごし、試合はPK戦へと突入。チェルシーは4人が成功、リバプールは5人が成功して迎えたチェルシーの5人目。タミー・エイブラハムのキックをGKアドリアンがセーブして、勝負が決した。
およそ1週間前にチームの練習に合流したばかりのマネは、前日会見で語った通り、オフのない生活に慣れているようだ。サラーはリバプールの中では唯一守備のタスクが軽減されている。フィルミーノはこれまでも数回、筋肉系の怪我で離脱しているように、その体には大きな負担がかかっているだろう。
強いフィジカルを生かして前線で起点になるジルーや、機動性と高さを生かして臨機応変にサイドに流れながら見方を生かすエイブラハムのように、CFにもいろいろなタイプがいる。しかし、フィルミーノのように献身的に中盤まで降りながら守備のタスクをこなし、抜群の得点力を誇る両ウイングを生かせるCFは他にいない。
フィルミーノの投入によってリバプールの攻撃陣は生まれ変わった。結果的には今季最初のタイトルを獲得したリバプールだったが、長いシーズンを考えると、フィルミーノの不在時のオプションを得ることはできなかった。
(文:加藤健一)
【了】