多くのコロンビア人がポルト経由で大成
中島翔哉の名を出すと、彼はしばらく考えてから口を開いた。
「動きの良い選手だろう。背番号10の」
名門ポルトの10番の噂は南米コロンビアの片田舎にも轟いているのだ。中島の入団発表の数日後、ワユ民族という先住民の血を引く若きコロンビア人アタッカーがポルトに加入している。中島と同じ左サイドを主戦場とする22歳のルイス・ディアスは国際的にはまだ無名だが、コロンビア代表の新鋭である。
「中島は息子さんとはライバルになりますね」
「ポルトには良い選手がたくさん集まる。そういうチームだ」
ルイス・ディアスの父親のマヌエル・ディアスはそう言うと、グランドの中央でリフティングに精を出す子供たちのほうに戻っていった。彼はクラブバイエルンという少年サッカークラブの監督である。
グラウンドの外に置かれた彼のスクーターには、コロンビア代表のユニフォームを着た息子の写真が座席の側面に大きく引き延ばして貼れていた。コロンビアの首都ボゴタから北へ約710キロ、ここ、グアヒラ県バランカス市でルイス・ディアスは生まれている。
コロンビア人選手が欧州に挑戦するのは、それほど珍しいことではない。にもかかわらず彼が現地メディアで話題になっているのは、新天地がポルトであることと、コロンビアサッカー界のレジェンド、カルロス・バルデラマの秘蔵っ子だからである。
コロンビアスポーツ紙「アス・コロンビア」Web(2019年7月4日)はルイス・ディアスの加入を受けて大胆にも《ポルトはコロンビア人選手がヨーロッパで住む最初の家》と謳い上げている。多くのコロンビア人選手がポルトで活躍、またはポルトを経由して大成しているからである。
フレディ・グァリン(2008/09~2011/12)、ラダメル・ファルカオ(2009/10~2010/2011)、ハメス・ロドリゲス(2010/2011~2012/2013)ら日本人に馴染みのある選手を筆頭に、ポルトガルリーグ3年連続得点王のジャクソン・マルティネス(2012/2013~2014/2015)、ロシアW杯の日本戦でハメスの代わりにタクトをふるいフリーキックを決め、現在はリーベル・プレートの司令塔を務めるファン・フェルナンド・キンテーロ(2013/2014~2014/2015)のほか、合計7人がポルトでプレーした。それらの系譜を継ぐ8人目のプレイヤーとして期待されているのだ。
18歳まで本格的なサッカー教育を受けず
とはいえ、ルイス・ディアスは18歳まで本格的なサッカー教育を受けていない。18歳のときに「コパ・アメリカ先住民サッカー大会」が開催されるにあたってそのセレクションを受けて合格、コロンビア各地の先住民の有望なプレイヤーが集まった。
コロンビアには102の部族が住んでいる。ワユ民族の一人として参加した同大会では決勝でパラグアイに敗れたものの、コロンビア代表を準優勝に導く活躍を見せた。そのときテクニカルディレクターとしてチームに帯同していた人物こそがカルロス・バルデラマだったのである。
バルデラマは彼の身体能力を高く評価して大会が終わるとすぐに自身が所属した国内の名門「ジュニオル」に推薦。セカンドチームのバランキージャFCに入団すると、3年目にトップチームに引き抜かれ、4年目に才能が開花。リーグ戦38試合に出場して13得点4アシストを記録、2018年9月にはA代表に初招集され、今年6月に開催されたコパ・アメリカにも出場している。
ボールを持ったら縦の動きに強く、独特のリズムで踊るように強弱をつけながら一瞬で相手を抜き去る。今年3月22日におこなわれた日本との親善試合では、79分に交代出場すると90分に左サイドから室屋を置き去りにして強烈な左シュートをポストに当てている。元コロンビア代表のアスプリージャを想起させるバネがあり、推進力に長けた選手だ。中島とはタイプが違うが、ライバルになることは間違いない。
現在、左サイドにはポルトで実績のあるメキシコ代表のヘスス・コロナ、それに、左右をこなせるブラジル代表のオタービオといったワールドクラスが待ち受けている。同期入団、同ポジションの中島翔哉とルイス・ディアスはどうなっていくのか。あるいは、どう連係していくのかーー。ポルトのポジション争いも見逃せない。
(取材・文:北澤豊雄)
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