開始2分で失点し…
ようやく出番が訪れた。日本代表MF中島翔哉が、現地時間13日にポルトガルの名門ポルトの一員として公式戦デビューを飾った。
舞台はチャンピオンズリーグ(CL)の予選3回戦2ndレグ。敵地での1stレグを1-0で制したポルトは、勝ち上がりに向けて有利な状況でロシアのクラスノダールをホームに迎えた。セルジオ・コンセイソン監督は、この重要な一戦に中島を先発で送り出したのである。
今季からポルトに加入したばかりの中島は、まだ指揮官からの信頼を確固たるものにできているとは言い難い。
最初の公式戦だった7日のCL予選3回戦1stレグは、アウェイまで遠征に帯同しながらベンチ外。続く10日のポルトガル1部リーグ開幕戦はベンチ入りこそしたものの、1点ビハインドの状況で切り札として起用されたのは17歳の若手選手だった。
今のポルトはチームとしての明確な形が出来上がらないままシーズンに突入してしまっている。メキシコ代表で昨季まで主将だったエクトル・エレーラをはじめ、攻撃の核だったヤシン・ブラヒミ、最終ラインの軸だったフェリペとエデル・ミリトンといった退団選手の抜けた穴を埋めきれていない。
プレシーズンマッチでも様々な組み合わせを試しながら戦い、公式戦が始まってもメンバーが固まっていない状況で、昇格組のクラブを相手にしたリーグ開幕戦に敗れてしまった。
そんなタイミングで迎えたCL本戦出場権獲得を目指してのクラスノダールとの大一番。10番を託された新戦力の中島は、ムサ・マレガとの2トップ、あるいはトップ下のような位置で先発起用された。「何で使われていないんだ?」という疑念や期待を、すべて信頼に変える時が来た。
だが、ポルトは出鼻をくじかれてしまう。試合開始から2分3秒でクラスノダールに先制を許し、2戦合計スコアでも並ばれてしまった。コーナーキックのこぼれ球を、トニー・フィルヘナが絶妙なボレーシュートで押し込んだ1点でポルトの優位な状況は一瞬にして消え去ってしまった。
ホームで負けるわけにいかないポルトは、両サイドを起点にクラスノダールのゴールに迫る。その中で、中島はやや孤立気味であまりボールに触れる回数も多くなかった。ところが12分に再びポルトが失点した場面で、それまで目立たなかった10番が現地の中継映像にピックアップされることになってしまう。
まずかった中島の守備対応
クラスノダールは自陣ペナルティエリア内でボールを奪うと、左サイドから一気にカウンターを仕掛ける。そこで中島の攻撃から守備への切り替えが一瞬遅れ、マゴメド・スレイマノフに先に走られてしまう。完全に背後をとられてしまい、フィルヘナからラストパスが送られた時にはもう追いつけない状況になっていた。
さらに畳み掛けるクラスノダールは34分にも、サイドチェンジのロングパスを受けたスレイマノフのカットインを止められず、あっさりと追加点を奪う。これで2戦合計スコアは1-3となり、クラスノダールにはアウェイゴールが3つ。ポルトがCL予選プレーオフ進出を決めるためには、少なくとも3ゴールが必要になった。
そのためセルジオ・コンセイソン監督は、今季公式戦初先発となったアルゼンチン代表の右サイドバック、レンゾ・サラビアをあっさり下げ、前線に長身のFWゼ・ルイスを投入。右ウィングのヘスス・コロナを右サイドバックに下げる超攻撃的な布陣にしたが、指揮官の采配には焦りが見え隠れする。
後半開始早々にはポルトの中盤で今季全ての公式戦に先発起用されていたポルトガル代表MFセルジオ・オリベイラが右足首をひねって負傷退場。新加入のコロンビア代表MFマテウス・ウリーベとの交代を余儀なくされるアクシデントもあった。
こうした中でも57分、右サイドの中島が上げたクロスが左サイドまで流れ、ルイス・ディアスを経由し、左サイドバックのアレックス・テレスが再びペナルティエリア内へ送る。そのドンピシャクロスから、ゼ・ルイスのゴールが生まれた。
76分にはルイス・ディアスが強烈なミドルシュートで2点目を奪い、2戦合計スコア3-3まで追いすがる。しかし、前半の失態を取り返すことはできず試合終了。アウェイゴール差でポルトのCL予選敗退が決まってしまった。
今回の敗戦によってポルトはヨーロッパリーグ(EL)に回ることとなる。ヨーロッパのカップ戦出場権は確保しているが、CLに比べて移動や日程面でタフな戦いを強いられる。グループリーグの組み合わせしだいでは、ウクライナやアゼルバイジャンのような東に遠く離れた国まで赴かなければいけない可能性もあるのだ。
中島にとって苦しい状況も、あまり変わらないかもしれない。今回のクラスノダール戦で最初は中央で起用された意図を読むと、やはり課題として守備面での戦術理解や実行能力がセルジオ・コンセイソン監督の求めるレベルに達していないのではと感じる。
指揮官が中央で起用した意図とは?
ポルトは両サイドが攻撃の軸になり、特に左サイドバックのアレックス・テレスをいかに高い位置でボールに絡ませるかが好不調の鍵を握る。そのためには逆サイドの貢献も重要で、互いにバランスをとりながら攻撃を展開していくことになる。
そうなれば中央で細かいコンビネーションを見せるような場面は少なくなり、どちらかといえばフィニッシュの局面で力を発揮できるかが重要になる。また中央でボールを失う回数もそれほど多くならないため、横関係か縦関係かに関わらず、2トップの選手の守備負担はサイドほど大きくならない。
セルジオ・コンセイソン監督は10日のジル・ヴィセンテ戦で中島を起用しなかった理由について「彼は今、このクラブを知る過程にいる。それはポルティモネンセとも中東とも大きく違う」と述べていた。この言葉もヒントになるだろう。
中島はポルティモネンセでも、カタールのアル・ドゥハイルでも“王様”だった。攻撃の絶対的な柱であり、守備のタスクはある程度免除されていたところもある。それがいい意味で活躍につながっていたところもあるし、悪い意味では欧州基準の守備能力を身につけられなかったと言うこともできる。
ポルトは国内屈指のビッグクラブで選手個々のクオリティも高いが、ピッチ上の全員にハードワークを求めるスタイルで戦っている。指揮官にはアンタッチャブルな存在を置きたがらない傾向にある。だからこそ、まずは戦術理解の過程で中島を中央のポジションで試してみたのかもしれない。
クラスノダール戦で背番号10が躍動したかと言われれば、決してそうではない。何度か得意の左サイドからのドリブルカットインを見せたが、中央ではあまり有効な周囲との絡みを見せられず、右サイドでも窮屈そうだった。
彼が最も得意とする左サイドは、クラスノダール戦でゴールという結果を残したルイス・ディアスだけでなく、万能型FWのオターヴィオなどライバルが多くいるチーム内で最も競争の激しいポジションでもある。
序列が見えつつある中、まずは限られたチャンスを生かしてどんなアピールをしていくか。次なる戦いの場、リーグ戦はまたすぐにやってくる。
(文:舩木渉)
【了】