盤石のマンチェスター・シティ。新戦力と既存メンバーの融合で3連覇へ
マンチェスター・シティは2シーズン連続で内容と結果を両立したサッカーを見せている。ロンドンスタジアムに乗り込みウェストハムと対戦した今季の開幕戦も相手に付け入る隙を与えず5-0の快勝。3連覇を予感させる幸先の良い船出となった。
またアトレティコ・マドリーから新加入のロドリがデビューを飾った。バルセロナのセルヒオ・ブスケツに例えられるアンカーは、相手のプレスに苦戦する場面も見られた。しかしつなぎの潤滑油となる働きやウェストハムの攻撃を未然に防ぐプレーを披露し、プレミアリーグ初戦としては上出来だった。
既存戦力の選手たちも自身の価値を改めて証明している。まずはGKだ。エデルソンがコパ・アメリカ参加の影響でチームへの合流が遅れたことや、プレシーズンマッチではクラウディオ・ブラボが活躍していたこともあり、開幕戦のGKが誰になるかも注目が集まった。しかし最終的に先発したのはやはりエデルソンだった。
足元の高い技術でビルドアップを助け、ウェストハムのハビエル・エルナンデスからの至近距離からのシュートに反応してゴールを死守した。ブラボも悪くない状態だけに、今後の起用法も気になるところだ。
また右サイドバックのカイル・ウォーカーは運動量で存在感を示した。力強いオーバーラップからガブリエル・ジェズスの先制点をお膳立てしたのだ。ユベントスから加入したジョアン・カンセロとポジションを争うことになったことで、よりモチベーションが上がり、高パフォーマンスに繋がったのかもしれない。
なにより躍動したのは、ハットトリックを達成したラヒーム・スターリングだ。ドリブル突破でロングカウンターの起点となったケビン・デ・ブルイネからパスを受けたイングランド代表FWは冷静に一対一を沈めて今季初ゴールを挙げる。
リヤド・マフレズからの浮き球のスルーパスを沈めた2点目は、オフサイドが疑われるも今季から施行されたVARの判定によりゴールが認められた。3点目もマフレズのパスから一対一を迎えると相手GKルカシュ・ファビアンスキの逆をついて得点。プレミアリーグ史上8人目の開幕戦ハットトリックを達成した。
優勝に燃えるリバプール。順調な船出も懸念点あり
昨季のプレミアリーグでは勝ち点97を獲得するものの、勝ち点1差で優勝に届かなかったリバプール。ホームにチャンピオンシップ王者(英2部リーグ)のノリッジを迎えた今季の開幕戦では、4-1で勝利。チームの完成度の高さを見せつけた。
リバプールのレギュラーに大きな変更はない開幕戦だったが、特筆すべきはディボック・オリギのパフォーマンスだろうか。
そもそも左WGのレギュラーはサディオ・マネだが、アフリカネーションズカップに出場して決勝に進出したため、トップチーム合流が遅れてしまった。その影響もありベンチに座るマネに代わり左ウィングにオリギが入ると、ドリブルの仕掛けで躍動する。マンチェスター・ユナイテッドやアーセナルが獲得を目指していたという、期待の若手SBマックス・アーロンズを圧倒したのだ。
結果的にチーム4点目となるゴールも決めて、左ウィングの代役不在を解決する可能性を示唆した。
また、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノのコンディションの良さも光った。エジプト代表FWはマネ同様にアフリカネーションズカップ、フィルミーノはコパ・アメリカに参加しているため、オフが他の選手より短かった。しかし両者とも得点やアシストを記録するなどキレのある動きで調子の良さを披露している。
ただ、ロングキックを蹴る際に軸足を滑らせて負傷離脱した守護神アリソンの状態は心配だ。代役は試合の5日前に獲得したアドリアンが務め、悪くないパフォーマンスを披露したが、ブラジル代表GKと比較するとやはりセービング能力や守備範囲の広さが物足りない。早期復帰を願うばかりだ。
結果はショックだが、収穫もあった新生チェルシー。更なる時間をかけて成長を。
フランク・ランパード監督のプレミアリーグ初戦となったマンチェスター・ユナイテッド戦。0-4という、予想以上に大差を付けられての敗戦はショッキングな結果であった。しかし、次につながる良かった点もある開幕戦だった。
試合前に注目されたのは、トップ下の人選だ。ロス・バークリーとメイソン・マウントのどちらを起用するかは識者の中でも意見が分かれた。プレシーズンで好調だったバークリーはゴールに直結するプレーを連発したが、マウントの90分間プレスをかけ続ける走力は捨てがたい。
そこで監督の出した解答はトップ下にマウント、左サイドにバークリーを配置する「二兎追う」選択だった。ただ結果的にその判断は「一兎も得ず」になった。共に攻撃で違いを作る場面が少なく、中途半端になった印象だ。
またダビド・ルイスの電撃退団によりアンドレアス・クリステンセンとクルト・ズマの先発起用となったCBだが、後者は実力不足を露呈してしまった。左CBで出場したフランス代表は、得意でない左足でのボール扱いに苦戦し相手のプレスの標的となり、先制点となるPKも献上するなど、苦しい試合になった。
ただポジティブな要素もある。エメルソンの活躍だ。スピードを活かしてボール推進する得意のプレーを披露し、左サイドの攻撃を活性化させた。ランパード監督がマルコス・アロンソではなくエメルソンを起用する理由がわかる試合になった。
そしてチームの戦術もある程度機能することもわかった。ユナイテッドが比較的受け身な姿勢で臨んでいたとはいえ、前半にはランパード監督の掲げるハイプレスとポゼッションが機能している時間帯もあった。あとはゴールだけだったのだが、エデン・アザールの退団もあり、スコアラーの不在だったことが響いた。
最後に、精神的なショックが大きい試合に関わらず試合後のスタジアムに“レジェンド”フランク・ランパードへのチャントが鳴り響いたことは、クラブ全体が同じ方向を向いている兆候なはずだ。選手も監督も若返ったチェルシーの進化は時間をかけて見守るべきだろう。
エースの重要性を改めて感じたトッテナム。好調な選手が多いのは好材料か
昨季に完成した新スタジアムで開幕戦を迎えたトッテナムの相手はアストン・ヴィラだった。デレ・アリが怪我、ソン・フンミンが昨季のボーンマス戦の退場により出場停止と攻撃の主力が欠場する中、クリスティアン・エリクセンがベンチ。新戦力のタンギ・エンドンベレなどボランチを3枚並べる4-3-1-2で試合に臨むが、前半9分にヴィラのジョン・マッギンに先制点を奪われるネガティブなスタートになってしまった。
1点ビハインドのまま前半を折り返したスパーズの嫌な雰囲気を変えたのがエリクセンだった。64分からデンマーク代表MFが出場すると、一気にチームのテンポは良くなり相手ゴール前までボールが運べるようになる。
するとエリクセン投入の9分後にエンドンベレの同点ゴールが生まれた。今季にリヨンから加入した新戦力はルーカス・モウラの落としを受けると、ダイレクトで放たれたシュートはゴール右隅に突き刺さった。スパーズ史上最高額で獲得した新戦力は早速結果を残した。
これで完全に流れをものにしたトッテナムは遂に逆転する。エリク・ラメラが素早いトランジョンでボールを奪うとシュートを放つ。ボールはヴィラのDFに当たると、ハリー・ケインの足元に転がり込んだ。ここからケインは一対一を冷静に左隅に沈めてヒーローとなった。ムサ・シソコの中央突破からパスを受け更に得点を重ねたケインは、「8月に弱い」という印象を完全に払拭したようだ。
他にも若手のハリー・ウィンクスがアンカーの位置で試合をコントロールする役割を完遂した。同じく若手のカイル・ウォーカー・ピータースは、戦前は不安視されることも多かったが、攻守ともに無難なパフォーマンス披露。それどころか攻撃の場面では絞り気味にプレーする「偽SB」の役割すら担った。好調な選手は多いだけに、トッテナムが更なる進化を遂げられるかに注目だ。
内容に改善の余地も若手が躍動。アーセナルの収穫と残念なニュース
ウナイ・エメリ監督の2年目を迎えたアーセナルは、初戦でニューカッスルと対戦した。11/12シーズン以来となるアウェーでの開幕戦だ。前半からボールを保持するも決定機に至らないガナーズだったが、ピエール=エメリク・オーバメヤンの決勝点を守り抜き辛勝。勝ち点3を持ち帰るという最低条件は達成した。
苦手としたアウェー戦の勝利と共に収穫と言えるのが、アカデミー出身の若手がスタメン出場し、存在感を発揮したことだろう。ジョセフ・ウィロックはエメリ監督が期待をかける19歳で、昨季のヨーロッパリーグ決勝にも途中出場を果たした。
ニューカッスル戦はトップ下でプレーすると、中央の狭いスペースでボールを受けながらも推進力を見せて攻撃にアクセントを加えた。また昨季はホッフェンハイムへのローンを経験したリース・ネルソンは、スピードを活かした突破力を披露している。
そして、エインズリー・メイトランド=ナイルズの貢献も見逃せない。オーバメヤンの決勝点は21歳の右サイドバックがお膳立てしたのだ。ニューカッスルがサイドへ展開したボールをカットしたナイルズはそのまま持ちあがり中央へクロス。低い弾道のボールはフリーのオーバメヤンへ綺麗に繋がり、ストライカーは一対一を沈めるだけだった。
ニコラ・ペペとダニエル・セバージョスの新戦力も出場し今季に期待が膨らむガナーズだが、残念なニュースもある。セアド・コラシナツとメスト・エジルがピッチ外の事件により開幕戦を欠場することになってしまった。
先月末に強盗に襲われる事件が発生し、その際は2人とも無傷だった。しかしこの件を境にコラシナツとエジルは強盗グループの標的となり、選手とその家族の安全面を優先すべきとの判断により欠場が決まった。2人の安全が確保されると共に早くの復帰を願うばかりである。
カウンターが冴えたマンチェスター・ユナイテッド。今後はプランBが鍵か。
オールドトラフォードにチェルシーを迎え4-0の勝利を飾ったマンチェスター・ユナイテッド。スピーディーなカウンターがチェルシーにハマり、効率よくゴールを重ねた。
攻撃戦術に特徴が出た。ワントップと2列目の3人は、マイボールになると全速力でカウンターに参加した。守備から攻撃への切り替えがとても速く、枚数の多い迫力のあるカウンターが実現した。
またカウンターを発動するパスパターンも見て取れた。ボールを奪うと前線のマルシャルやリンガードにボールを当てる。それをダイレクトや2タッチで落とすとカウンターが始まる。落としのボールを受けた選手は前を向いてプレーできるので攻撃のスピードは加速する。人数をかけながら何度も繰り返したパターンだった。
注目の新戦力の活躍もファンを喜ばせている。アーロン・ワン=ビサカは額面通りの守備貢献を見せた。ボールウォッチャーになる場面もあったが、身体能力を活かした守備で対峙するアタッカーに仕事をさせなかった。もう1人注目株ハリー・マグワイアも出色の出来を披露。鋭い読みと当たりの強さでチェルシーのFWタミー・エイブラハムを抑えた。マグワイアはBBCが選ぶ開幕戦のベストイレブンに選出されている。
それでいてダニエル・ジェームズが躍動したのは大きな収穫だろう。プレシーズンではこれといった活躍が出来なかった21歳だが、途中投入されたこの試合は違った。81分に得点を挙げたことも喜ばしいが、快足を活かした前線からのプレスで相手にストレスを与えた点も特筆すべきだ。
ユナイテッドにとって想定以上の結果を得た開幕戦だが、改善点もある。強力なカウンターが機能した一方で、チェルシーが引いて守る場面でチャンスを作ることに苦戦した印象だ。今後のリーグ戦では守備ブロックに人数を割いてくる相手が出てくることは想定でき、その際の解決策を準備したい。
(文:内藤秀明)
【了】