厳しい試合を勝ち切る勝負強さ
最前線からガンガン仕掛ける得意のハイプレスが鳴りを潜めれば、自慢の2トップを中心とした高速ファストブレイクも、なかなか発動しない。シュート数はFC東京6本に対しベガルタ仙台は10本。「厳しい試合になりましたけど」と長谷川健太監督が会見で切り出したように、見に来たサポーターから絶え間なく歓声があがるようなゲームではなかった。
19時試合開始にもかかわらず、気温は29.5度で消耗戦模様。そして相手は、直近の公式戦で1分け6敗の天敵。せっかく得たPKも、1度は相手GKヤクブ・スウォビィクに止められたかに見えた。
普通に考えれば引き分け、下手をすれば負けもありうる状況だったが、90分を終えてホームチームは、きっちり勝ち点3を積み重ねていた。優勝するチームは苦しい試合でも勝ちを拾えるというが、まさにこの日のFC東京は、そう思えるような強さを感じさせた。
前半は「正直、あそこまで極端にというのは想像していませんでした」と敵将・渡邉晋監督が話すほどに、FC東京は前に出ずバランスを考えた慎重な戦いぶり。お互いがけん制するかのような最初の45分は、スコアレスのまま過ぎ去った。
後半もなかなかチャンスを作れない中、一瞬の好機を見逃さなかったのはMF東慶悟。「スピードが武器なのでイチかバチか信じて」と中盤から浮き球のスルーパスを送ると、その思いに応えるようにFW永井謙佑が俊足を飛ばしてペナルティエリア内に侵入した。ここまで強烈な守備を見せていた仙台DFシマオ・マテのカバーも及ばず、ファールで快足FWが倒されると、首位チームにPKが与えられた。
主力選手が話す強さの理由は?
キッカーはFWディエゴ・オリヴェイラ。相手GKと駆け引きをしながら中央に蹴りこんだが、待ち構えていたヤクブ・スウォビィクにがっちりキャッチされた。FC東京サポーターの悲鳴と、仙台サポーターの歓声がこだまする中、意外な展開が待っていた。
シュートの際、ゴールライン上にGKの足がかかってなかったとして蹴り直しが宣告されたのだ。スタジアムが騒然とする異様な状況だったが、冷静さを保ったブラジル人ストライカーは、2度目のキックをゴール右隅に突き刺して、後半17分に貴重な決勝点をたたき出した。
天敵相手に苦しんだ試合。しかし、その状況でも白星を積み重ねてしまうのが、今年のFC東京の凄さだろう。この勝負強さの理由についてディエゴ・オリヴェイラは「勝てる理由はチームで非常にいい練習をしているから」と言い切った。
奇しくも、同じ理由をあげたのが東だ。「本当にみんな練習から勝負にこだわって、ワンプレーワンプレーにこだわってやっている。みんな暑い中でも声を出したり、メリハリを持ってやっているので、それは今年のいいとこだと思っています。いい練習があっての勝ち点3、順位だと思っています」。日々行われる、良質のトレーニングが快進撃の理由と主力の2人は説明した。
GK林彰洋は、最後尾からフィールド全体を見渡すポジションならではの細かい部分に着目。「要所要所で締まったプレーが出るのが今年の強さかなと。それが例えば(相手の)決定機があっても、みんなで体を投げ出して守れた後に、(味方の)点が決まったりすることが多い。そういう地味なプレー、でも試合を振り返れば効いていたなというプレーが今年は多いのではないかと思います」と語る。
悲願の優勝へ向け着実に前進
そして、それを可能にしているのが精神的な部分だと続けた。「僕が来てから3年目ですけど、悔しい思いしかしてこなかったので。みんな、その2年間の思い、もっと長い思いをしている人もいますけど、本当に悔しい思いしかしていなかったので、その思いを持って今年挑んでいるのは、少なからず技術だけではないのかなと。やっぱりそういうメンタリティーを持って臨めているのは大きいかなと思っています」。昨夏の失速など苦しんだことも糧に、地道に積み上げてきたものが、今のFC東京を快走させる要因なのだろう。
またガンバ大阪で3冠も獲得し、勝ちを知る長谷川監督の手綱さばきも見逃せない。試合後の会見で「他が勝ったり負けたりというのは気にしていないです。他を気にすると自分たちの試合、戦いができないと思うので。目の前の状況、1試合1試合倒していくだけかなと思っています」と語ったように、眼前の敵に集中することを言い続けている。
その姿勢はチームにも浸透している。「来週広島戦があって、そこが終わるとアウェイ8連戦が待っていますけど、1試合1試合戦っていかないといけないですし、だからと言って何かを変える訳ではない。自分たちの良さを毎試合毎試合、1試合1試合続けていきたいです」と東も話すように、揺るがずやるべきことをやり、それが好成績につながっている。
前節でリーグ戦5連敗中だったセレッソ大阪に3-0で快勝。今節は「FC東京にとってのベガルタ仙台と言うのは、ある意味鬼門だったのかなとは思います」と林も警戒していた難敵も撃破し、1つずつ壁を越えて2位との勝ち点差は7に広がった。
プレー面でも精神面でも、積み重ねてきた強さを持つFC東京が、悲願の初優勝に向けて着実に前進を続けている。
(取材・文:下河原基弘)
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