リスクを承知の守備戦術
この日のユナイテッドのフォーメーションは4-2-3-1。ある程度前からプレスをかけて、サイドを限定し、ボール奪取することを目指していた。ただ序盤戦はチェルシーが上手くポゼッションしていたこともあり、押し込まれてシュートを打たれる場面が目立った。コンパクトな陣形で守っていたにもかかわらず、サイドを崩されて突破される。あるいは守備網を抜けられて逆サイドに展開されることが多かったのだ。
ただしスールシャールは受け身になり過ぎることを嫌い、攻撃的な守備戦術を選択した。
例えばサイドの守備だが、中盤のジョルジーニョがボールを持ち、チェルシーの右SBセザル・アスピリクエタが高い位置まで上がった場合でも、左ウイングのマーカス・ラッシュフォードはアスピリクエタについて低い位置まで下がることは少なかった。それよりもジョルジーニョとアスピリクエタのパスコースを切りながら高い位置にとどまることを選択した。もちろんカウンターに備えるためだ。
この場合ジョルジーニョが浮き球のパスや、トップ下のメイソン・マウントを経由するパスで、アスピリクエタにボールを供給した場合、左SBのルーク・ショーが自分のマークであるペドロを新戦力CBハリー・マグワイアに受け渡し、アスピリクエタにプレスをかける。この守備ブロックのスライドは時に間に合わず、シュートまで持ち込まれることもあったが、多くの場面で機能していた。
攻撃戦術の定着
さてこのような守備戦術を選択していたこともあり、ユナイテッドの両翼は高い位置に保ち、カウンターを発動させやすくしていたのだ。とはいえこの試合のユナイテッドのカウンタースピーディー感は衝撃的だった。面白いくらいに縦に早い攻撃で4ゴールが決まっている。
昨季の終盤との一番の変化は、ボールを奪った直後にランニングしている人数だ。ボールを奪うやいなや、ワントップのアントニー・マルシャル、左WGラッシュフォード、右WGアンドレアス・ペレイラ、トップ下のジェシー・リンガードらは、全速力でボックス内に向かう。
守備から攻撃への切り替えが異常に早く、ボールを奪って2秒すれば、3人以上の選手がボックス内に向かって突進しているシーンは何度も見られた。あのランニングをサボりがちだったマルシャルですら、全速力でスプリントしていたのだから驚きだ。
またカウンターを発動するパスパターンも練習してきたようだ。ボールを奪うと、マルシャルやリンガードなど前線の選手にボールを当てる。それをダイレクトや2タッチで落とすとカウンターのスタートだ。落としのボールを受けた選手は前を向いてプレーできるので、ドリブルにせよパスにせよ、攻撃のスピードは加速する。
昨季まではラッシュフォードを最前線に置くことが多かったが、今季はプレシーズンマッチからフランス人FWを起用するようになったのは、この落としのプレーがイングランド人FWよりも上手いからだろう。
ユナイテッドはどちらかというと技術よりも身体能力優位なタイプが多く、そのパスワークの精度は完璧には遠い。ただ同じパターンを何度も繰り返し、かつ、人数をかけることで、パスがズレたりしながらもなんとか突破することが多く、結果的にカウンターを何度も発動させた。
今後の課題と期待
ユナイテッドにとっては、はっきり言って出来過ぎな開幕戦となった。勝ち点3だけでも御の字にもかかわらず、4得点を決めることができて無失点だ。ただしまだまだ改善させていくべき部分も多い。
例えばカウンターは切れ味抜群だったが、チェルシーが引いて守る場面では攻めあぐねるシーンが多かったことも確かだ。リトリートして守るバーンリーのようなチームと当たる時は勝ち点をこぼす可能性もある。
そういう意味では第3節のクリスタル・パレスは比較的、引いて守るチームのため、ユナイテッドとしては試される展開になる。フアン・マタなどパスワークに秀でた選手を起用して、この課題を解決できるか。
またチェルシー戦は相当ハードな試合だったため、この戦い方をシーズン通して実行するには無理がある。いずれにしてもスールシャール監督にプランBがあるかどうかは重要だ。
とはいえ、ユナイテッドには一つの勝ちパターンを手にいれて2019/20シーズンをスタートさせたことも確かだ。この調子を維持することができれば、トップ4入りは十分に可能だ。今季のユナイテッドの躍進に期待したい。
(文:内藤秀明)
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