中島翔哉、リーグ開幕戦にベンチ入りも…
ポルトガルリーグの2019/20シーズンが9日に開幕を迎えた。多くの日本人選手が参戦している中で、ポルティモネンセのDF安西幸輝が右サイドバックとしてオープニングゲームとなったベレネンセス戦に先発出場。GK権田修一もベンチ入りしていた。
10日には王者ベンフィカがパソス・デ・フェレイラを5-0で粉砕し、好スタートを切っている。しかし、追う立場の名門ポルトは昇格組のジル・ヴィセンテに1-2でまさかの敗戦を喫している。
今季からポルトに加入し10番を任されることになった日本代表MF中島翔哉は、その敗戦をベンチから見届けることになった。リーグ開幕に先駆けて行われたチャンピオンズリーグ(CL)の予選3回戦、ロシアのクラスノダールとのアウェイゲームはベンチ外で、今度こそ出場機会が巡ってくるかと思いきや、またも蚊帳の外に置かれることとなってしまった。
昨季、勝ち点85を獲得しながら2位に終わったポルトは転換期に差し掛かっている。2017/18シーズンは勝ち点88で優勝を果たし、セルジオ・コンセイソン体制で3年目を迎えて充実一途のチームからは主力が大量に流出してしまった。これはポルトというクラブの性質を考えれば、ある意味で通らなければならない道なのかもしれない。
かつてハメス・ロドリゲスやラダメル・ファルカオ、ジャクソン・マルティネス、フッキといった選手たちが去っていったように、今季開幕前には中心選手たちがさらなる飛躍を目指して移籍していった。最終ラインの柱だったブラジル代表DFエデル・ミリトンはクラブ史上最高額でレアル・マドリーへ、ブラジル人DFフェリペもアトレティコ・マドリーへと旅立った。
さらにオリベル・トーレスはセビージャ移籍でスペイン復帰を決断し、主将のエクトル・エレーラは契約満了とともにフリーでアトレティコへ。攻撃のキーマンとも契約延長は叶わず、アルジェリア代表FWヤシン・ブラヒミはカタールのアル・ラーヤンに移籍した。
こうしたチームの大幅な刷新が進む中で、ポルトの今季の補強の目玉となったのが中島だった。獲得した選手の中では移籍金の額が最も高く、「8」と発表されていた背番号も、すぐに「10」へと変更された。これだけでも24歳の日本代表にかかる期待の大きさはよく分かる。
ポルトの攻撃を引っ張る左サイド
ただ、同時に中島が得意とする左サイドは、チーム内で最も激しい競争が繰り広げられるポジションになった。昨季まではブラヒミが絶対的な地位を築いていたところに、中島だけでなくコロンビア代表の22歳、ルイス・ディアスも獲得。
前線ならどこでもこなせるブラジル人FWオターヴィオも左サイドで起用されることがある。また、右サイドに下部組織出身の19歳、ロマーリオ・バローが台頭したことで、メキシコ代表のMFヘスス・コロナも左サイドに回される機会が増えた。
実際、中島はプレシーズンマッチでも後半途中からの投入が多く、まだセルジオ・コンセイソン監督の信頼を掴みきれていない。ジル・ヴィセンテとの開幕戦も、右サイドにコロナ、左サイドにオターヴィオが配置された。
ポルトの基本システムは4-4-2で、CL予選のクラスノダール戦は右サイドにロマーリオ・バロー、左サイドにコロナという組み合わせが起用された。2トップにもいくつかパターンがある。クラスノダール戦の場合はマリ代表FWムサ・マレガとブラジル人FWチキーニョ・ソアレス、ジル・ヴィセンテ戦はソアレスとカーボヴェルデ代表FWゼ・ルイスのコンビだった。いずれもフィジカル能力に長けた屈強なストライカーたちだ。
戦術は比較的ベーシックなもので、最も分かりやすい得点パターンはサイドからのクロスに強烈な2トップが合わせていくというもの。守備では全員がハードワークして4-4-2のブロックをバランスよく動かしながら、相手のボールを奪って素早く次の攻撃に展開していくことが求められる。
これまでのプレシーズンマッチでも見られたように、ジル・ヴィセンテ戦でも特に左サイドからの攻撃は迫力満点だった。ポルトの左サイドバック、ブラジル代表のアレックス・テレスはもはや“戦術兵器”とも言えるほどの圧倒的な攻撃力を有し、豪快な攻め上がりでオターヴィオのお膳立てを受けながら高精度のクロスをペナルティエリア内に供給していく。
最後の交代枠で投入されたのは…
一方、ジル・ヴィセンテは昇格組ながら一歩も引くことなく応戦した。強豪ポルト相手にも自陣に引きこもるのではなく、コンパクトな守備組織を維持しながら、ボールを奪えば右サイドのローレンシーを中心に猛烈な勢いで相手ゴールに迫っていく。カウンターアタックの威力は抜群だった。
ポルトはキャプテンのダニーロ・ペレイラがアウェイまで帯同しながらベンチ外となり、中盤でセルジオ・オリヴェイラとブルーノ・コスタがコンビを組んだものの、中央からの構成力に欠け、アレックス・テレスの攻め上がりを利用したクロス以外に再現性のある有効な攻撃パターンを確立できず、なかなか先制点を奪えない。
前半終了間際には相手ペナルティエリア内でのファウルによってPKを獲得したかに思われたが、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の助言によってノーファウルの判定に。前半は0-0のまま折り返した。
後半、ジル・ヴィセンテは豪快なカウンターで試合を動かした。60分、途中出場したばかりのポルトFWマレガのミスを突いて中盤でボールを奪うと、MFジョアン・アフォンソが一気に持ち上がって相手ディフェンスを引きつける。そして右のローレンシーに展開し、背番号7のブラジル人FWがカウンターを完結された。
このゴールの直前、ポルトのセルジオ・コンセイソン監督は2人を交代で送り出している。1人は失点につながる軽率なミスをしてしまったFWのマレガ、もう1人はコロンビア代表のルイス・ディアスだった。下がったのはソアレスとコロナ。つまり2トップの一角と片方サイドを入れ替える目的だった。
この後、ポルトは73分にアレックス・テレスのPKで同点に追いつくが、77分にボジダル・クラエフに技ありのゴールを許し、ジル・ヴィセンテに再び勝ち越されてしまう。2失点目の直後、ポルトは最後の交代カードを切った。
そこでセルジオ・コンセイソン監督に送り出されたのは、下部組織出身FWファビオ・シルバだった。ルイス・ディアス投入で左サイドから右サイドに回っていたオターヴィオに代えて、攻撃を活性化させるためのオプションとして中島ではなく17歳の選手を選んだのである。
中島翔哉のチーム内での序列は?
結局、ファビオ・シルバは右サイドに張ることなく中央寄りで奮闘していたが、流れを変えることはできず1-2のまま試合終了。ポルトは重要な開幕戦を落とし、ジル・ヴィセンテに大金星を許してしまった。
10年以上前の選手登録違反で受けた降格と勝ち点剥奪処分について争っていた裁判が終了し、1部リーグで戦う資格を取り戻したことによって、3部リーグから特例で昇格を果たし、選手も監督もほとんどを入れ替えたチームにとって、大金星以上の価値ある勝利になっただろう。反対にポルトにとっては屈辱以外の何物でもない。
確かにセルジオ・コンセイソン監督率いるポルトから見れば、昨季の戦いが参考にならず、ほとんど情報のない相手に対するやりづらさはあったかもしれない。だが、実力差やクラブの格を考えても勝たなければならない試合だったことも間違いない。
その中で、中島に出番は回ってこなかった。指揮官は試合後の記者会見の中で「彼は今、このクラブを知る過程にいる。それはポルティモネンセとも中東とも大きく違う」と、中島を起用しなかった理由について語った。まだ戦術理解が不十分ということだろうか。
続けて「他の選手にも言えることだが、時間が経てばポジティブな反応が見られるだろう。素晴らしいクオリティを持った選手であり、我々は頼りにしている」とも述べているが、新10番は早くも難しい立場に置かれているようだ。
クラスノダール戦とジル・ヴィセンテ戦、公式戦を2試合こなしたことで現時点の序列は徐々に見えてきた。中島が左サイドで起用されるとすれば、オターヴィオ、コロナ、ルイス・ディアスに次ぐ4番手といったところだろうか。右サイドとの兼ね合いで流動的ではあるが、常に結果が求められるビッグクラブにおいて、ポジション争いは中島が過去に在籍してきたどのクラブよりも激しく厳しい。
ただ、ジル・ヴィセンテ戦でオターヴィオが何度か見せていたような左からドリブルでカットインする仕掛けは、アレックス・テレスの攻め上がりを活かす上でも重要な動きになり、それは中島が最も得意としている部分でもある。攻撃面で特徴を出せるとなれば、課題は守備面での貢献度にあるのかもしれない。
シーズンはまだ始まったばかりで、巻き返しのための時間は残されている。中島はわずかな時間でも与えられたチャンスを生かし、ポジションを奪い取れるだろうか。厳しい立場ではあるが、リーグ戦が最悪のスタートとなってしまった今こそ、ポルトを助けてファンを熱狂させる絶好のチャンスだ。
(文:舩木渉)
【了】