リバプールに続き、シティも大勝
昨季のプレミアリーグの覇権争いは、近年で最も激しいものとなった。最終的にマンチェスター・シティの連覇で幕を閉じたが、2位・リバプールとの勝ち点差はわずか「1」。もっと言えば、後者はリーグ戦全38試合でわずか1敗しかしていなかった。だが、シティはそれをも上回ったのである。まさに死闘であった。
迎えた2019/20シーズン。今夏に各クラブが積極的に補強を行ったが、やはり単純な戦力値で言うとシティとリバプールは充実している。今季も、この2クラブがプレミアリーグ全体を牽引していく存在となることだろう。
現地時間9日、先に開幕を迎えたのはリバプールであった。ホームで昇格組のノーリッジと対戦した同クラブは、モハメド・サラーやフィルジル・ファン・ダイクらにゴールが生まれ、4-1と快勝。期待を裏切らない、素晴らしいスタートを切った。
そして、10日には昨季王者のシティが登場。アウェイでウェストハムと対戦した同クラブも、変わらぬ強さを見せつけ5-0の大勝を収めている。いきなり、チャンピオンの貫禄を見せつける結果となった。
シティはこの日、お馴染みの4-3-3を採用して試合に挑んだ。最終ラインや中盤はおおむね予想通りのメンバーが名を連ねたが、前線にベルナルド・シルバの名はなく、リヤド・マフレズが先発入り。1トップはガブリエル・ジェズスが務めるなど、こちらはやや変化を加えてきた印象があった。
立ち上がり、シティはウェストハムの守備に苦しんだ。2列目のフェリペ・アンデルソンやミカエル・アントニオは中盤のケビン・デ・ブルイネ、ダビド・シルバに対するパスコースを限定するため、内側に絞って全体の距離感をコンパクトに保つ。そこへパスを入れられても中盤底のジャック・ウィルシャーやデクラン・ライスが素早くプレスを行い、2列目の選手と挟み込むような形でシティの攻撃をシャットアウト。アウェイチームはボールこそ支配できるものの、ゴール前に持っていくような形は、あまり作れていなかった。
ロドリの働きとウェストハムの停滞
もちろん、何度かそのエリアを突破してシュートまで持っていくシーンもあった。右ウィングのマフレズの個人技が光る場面もあり、GKウカシュ・ファビアンスキのファインセーブに阻まれたこともあった。だが、シティが本当に狙っている攻撃の形であったかというと恐らくそれは違うのだろう。「前半はかなり難しかった。いくつかのタッチがずさんだった」。シティの公式サイトによると、ラヒーム・スターリングは試合後にこう話していたという。この言葉からも、シティにとって立ち上がりが満足するべきものでなかったのは明らかだ。
一方ウェストハムは、今夏にクラブ史上最高額で獲得したフランス人FWのセバスティアン・ハラーを起点とした攻めでシティの攻略を試みた。1トップに入った背番号22にボールを当て、キープしたところで2列目のF・アンデルソンやマヌエル・ランシーニを生かす。とくに後者は抜群のテクニックと縦への推進力を発揮して何度もボックス内に侵入。左サイドのアントニオもフィジカルの強さを見せ、サイドで起点を作った。
それでもシティの守備陣は大きく揺るがず、得点の匂いを感じさせるまでには至らない。反対に、ウェストハムはついに恐れていた先制点を献上してしまう。
25分、マフレズのスルーパスに抜け出したカイル・ウォーカーがグラウンダーのクロスを送る。これをニアサイドでG・ジェズスが合わせ、シティが1点を奪ったのだ。
これでペースは完全にシティへ傾いた。ウェストハムも1点を返そうと前に出るも、次第にハラーの存在感が薄れ、攻撃は停滞していたのだ。
とくに守備面で存在感を光らせたのが今夏アトレティコ・マドリーから加入したロドリ。アンカーとして先発入りを果たしたスペイン代表MFは、相手が中盤底へボールを戻した際にも自身のポジションを捨て猛烈なプレスに行き、余裕を与えず。タックルがファウルになることもあったが、ウェストハムの攻撃を早い段階で摘み取るには申し分ない働きだった。
データサイト『Who Scored』によるとロドリはこの試合でチーム2位タイとなるタックル成功数3回を記録しており、空中戦の勝率は100%の成績。試合後のヒートマップを見ても幅広いエリアをカバーしていたことが明らかとなっており、まだ完全にチームにフィットしきれているとは言い難いが、持ち味は発揮できていたと言えるだろう。攻撃面ではまだまだ不要なボールロストも多いが、シーズン通して安定してくれば間違いなくシティにとってさらに貴重な存在となるはずだ。
シティのアタッキングサードにおける“質”
前半を1-0で折り返したシティは、メンバー変更を行わずに後半へ挑んだ。そして、この45分間で同クラブは自分たちの「実力」を発揮することになる。
前半同様ボールを支配し、ペースを握ったシティは55分、デ・ブルイネがドリブルを開始してロングカウンターに繋げると、最後はスターリングが左足でゴールネットを揺らし、リードを広げることに成功。その後、同クラブはウェストハムに決定機を作られたが、GKエデルソンの好セーブもあり無失点のまま時計の針を進めた。
するとシティは75分にスターリング、86分にセルヒオ・アグエロ(PK)、92分に再びスターリングが得点を挙げるなど攻撃陣が爆発。わずか15分の間に3点を追加し、5-0で試合終了のホイッスルを迎えたのである。
後半はとくにシティのアタッキングサードにおける質の高さが表れる結果となった。55分と86分、92分の得点はいずれもカウンターから生まれたものであり、ボールを奪ってから得点につなげるまでの時間はほんの数秒ほどしかかかっていない。にもかかわらず、シティはカウンター時、常にゴール前に2、3人の選手が絡んでいる。そしてボール保持者はほとんど中央を抜けていくため、両サイドに味方がいる場合は必然的に2つ以上の選択肢ができる。こうなると守備側は対応に手を焼き、止めるのが難しくなるのは当たり前だ。
得点シーンを振り返っても、たとえば55分のシーンでは中央を抜けていくデ・ブルイネに対し、スターリングとG・ジェズスが絡もうとしている(後者はオフサイドポジションにいたが)。92分の場面でも、ボールを持つマフレズに対しフィル・フォーデン、アグエロ、スターリングが動き出しを見せるなど、ゴール前に人数を集めるのがとにかく速い。そしてラストパスの質も極めて高いため、ウェストハムにとっては脅威でしかなかった。
カウンターではないが、75分の得点シーンもボールを持つマフレズに対してデ・ブルイネがペナルティエリアの角を突く動きを見せアグエロが中央で構え、スターリングが背後を狙うなどそれぞれがそれぞれの特徴を出すことでウェストハムの守備は少しゴタゴタとなった。この得点シーンはオフサイドを取られてもおかしくなかったが、シティの質の高さが表れた一つの象徴的なシーンと言えるだろう。
シティにとって、これ以上ない最高の新シーズンの幕開けとなった。今季もそのパフォーマンスには大きな注目が集まるが、果たしてここから王者はどのような物語を完成させるのだろうか。
(文:小澤祐作)
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