「あくまでも相手との……」
岩政 最近のJリーグでは走行距離とかスプリント数とか、試合の中で出てくるようになりましたけど、もう少しサッカーの面白さが分かるデータはないんでしょうか?
西内 スプリント数は、最終的に落とし込んだ数字です。データとしてはもっと複雑なところから始まっていて、カメラで常に選手の位置をモニタリングして位置情報を把握しているんですよ。
――Jリーグが2015年から導入した、トラッキングデータですね。
西内 それによって選手の位置や動きが、常に取れる状態なんですけど、その使い道がまだ分かっておらず、スプリント数や走行距離くらいしか出ていないのが現状だったりします。
その数字が、世界的にどう使われているかと言えば、怪我の管理ですね。スプリントのスピードが落ちたとなると、そろそろバテてきたんじゃないかと、早めに交代させたり、試合後にしっかりメディカルチェックを受けさせたり。そうすると選手寿命が伸びるとか、そういう使い方がされています。
ただ、せっかく位置が分かるのなら、個人的に焦点を当てたいのは、複雑な計算になると思うけど、『ポジショニングの良さ』ですね。
岩政 あー。
西内 ポジショニングは、ただこの位置にいればいい、というものではなくて……。
岩政 そうそうそうそうそう。
西内 あくまでも相手との……。
岩政 そう! そうなんですよ。
西内 しかも周りのチームメイトとの関係も含めて、ポジショニングの良さって何かなと考えたら、一応、定義に基づいて、その選手が良いポジションにいた率というのは計算できるはずです。
ただ、少なくとも表に出ている情報として、それに成功して活かせているチームは世界的に見てもないと思います。もしかすると、良いデータ定義を作っても、チームの競争力だからと内緒にしているクラブはあるかもしれませんが。
プレッシングの良さを定義する
――それはポジショニングの正解、つまり戦術が論理的に決まっている監督でなければ定義できないですよね?
西内 それもありますが、そうではないやり方もあります。例えば、何秒以内に相手にプレッシャーをかける、という定義から始まって、どこまで近寄ったらプレッシャーとするかを、まず一つ目。
そして、ボールが飛んできた位置などから、走る余裕のある時間を出す。そして、プレッシャーをかけた人数を割り出せば、プレッシングにおけるポジショニングの良さとしては、一つの定義なのかなと。
岩政 なるほど。そういうのを定義してしまえば、データは取れるわけですね。
西内 そうです。そうすると、ポジショニングのランキングも出せますが、たぶんそれは何回か見直さなければいけない。良いと判断された状況と、そうでない状況を映像で見たとき、この定義だとズレがあるなという試行錯誤を繰り返すことになります。
(司会・構成:清水英斗)
<プロフィール>
岩政大樹 Daiki Iwamasa
1982 年1月30日生まれ、山口県出身。東京学芸大から鹿島アントラーズに加入し、2007 年からJリーグ3連覇に貢献した。2010 年南アフリカW杯日本代表。13年に鹿島を退団したあとタイのテロ・サーサナ、ファジアーノ岡山、東京ユナイテッドFCを経て18年に現役を引退。現在は解説や執筆を行うかたわら、メルマガ、ライブ配信、イベントを行うなど、多方面に活躍の場を広げている。今年3月には『FOOTBALLINTELLIGENCE 相手を見てサッカーをする』(カンゼン)を上梓した。
西内啓 Hiromu Nishiuchi
1981年、兵庫県生まれ。統計家。東京大学助教、大学病院医療情報ネットワーク研究センター副センター長等を経て、多くの企業のデータ分析および分析人材の育成に携わる。著書である『統計学が最強の学問である』は2014年度ビジネス書大賞を受賞しベストセラーに。その他著書多数。2017 年には第10回日本統計学会出版賞を受賞。サッカーへの造詣も深い。2015年からはJリーグとアドバイザー契約を結び、Jリーグが推進する各プロジェクトへの助言や提言を行う立場にある。
【了】