トップチーム入りの可能性
レアル・マドリーへ移籍した久保建英にトップチーム昇格待望論も出てきていた。しかし、ジネディーヌ・ジダン監督は当初の予定どおり下部チームであるカスティージャでプレーさせるつもりのようだ。
プレシーズンマッチで久保は4つのポジションで起用されている。バイエルン・ミュンヘン戦の後半は左のインサイドハーフ、アトレティコ・マドリー戦の後半は右のインサイドハーフ、トッテナム戦が右ウイング、そしてフェネルバフチェ戦はトップ下だった。
どの試合も久保は「そこそこ」のプレーを見せている。簡単にボールを失わない、良いタイミングでパスを出せる、わずかな隙間を見つけてシュートを打つ、ボールの受け方がスムーズ……。こうした攻撃面での長所は日本のファンにはいまさらいうまでもないわけだが、スペインのメディアには驚きだったようだ。そもそもそれだけの才能があるからレアルが契約したわけで、トップチームに入れるかどうかはこれとはあまり関係がない。
インサイドハーフとしてのポイントは守備力だろう。レアルの場合、リーグ戦の多くの試合はハーフコートゲームに近くなるため、そこまで守備力は要求されない。とはいえ、インサイドハーフでプレーするならそれなりの守備力がないと話にならないわけで、守備組織の一員としてしっかりポジショニングができるか、球際でボールを奪えるかという部分がチェックされているはずである。
それに関しては全くダメということはないが、このポジションのレギュラーであるルカ・モドリッチ、トニ・クロースをしのぐほどのものも見せていない。つまり、モドリッチ、クロースの控えとしてトップチームに入る可能性はあるという程度だろう。
レアルのチーム事情
しかし、ここでチームはマルコ・アセンシオの負傷という事態に直面する。アーセナル戦で負傷したアセンシオは長期離脱が確実といわれている。右ウイングの一番手が離脱したことで、このポジションのレギュラーが確定していない。
本来は左が得意なヴィニシウスがテストされ、やはり左が得意と思われるロドリゴも右で試している。現状の一番手はルーカス・バスケスだが、攻撃の武器というより攻守をバランスよくこなせるハードワーカーだ。左にエデン・アザールを起用するなら、右はバランスをとってルーカス・バスケスが妥当なセンだが、より攻撃的な選手も必要になる。
スパーズ戦、久保は右ウイングとして約10分間プレーして3本のシュートを放った。最初の一撃はニアの下隅へ飛んだがGKウーゴ・ロリスに捕球される。2本目は決定機での右足のボレーだったが枠外。3本目はやや強引にカットインから狙ったがDFの頭部に当たった。1点とれれば大きかったが、少なくともヴィニシウス、ロドリゴより劣っている印象はない。
久保のトップ入りは遠のく?
現状で手薄な右ウイングでのプレーが認められれば、インサイドハーフのバックアップも含めてトップ入りの可能性は増す。ただし、それもチーム事情しだいだろう。
放出確実とされていたガレス・ベイルの中国への移籍に待ったがかかっている。貸し出しているハメス・ロドリゲスの復帰も噂されている。ジネディーヌ・ジダン監督にしてみれば一度は戦力外とした2人とはいえ、右ウイングが手薄な現状で背に腹はかえられないかもしれない。新戦力を獲得する資金もなさそうだ。ベイルかハメスが復帰すれば、右ウイングの席はとりあえず埋められる。
久保は4-2-3-1のトップ下もできるが、そこにはイスコがいてアザールもテストされている。三番手でトップ入りする可能性は低い。そもそもこのポジション自体がないかもしれない。プレシーズンマッチではモドリッチとクロースが2ボランチでプレーしていたが、この2人では守備力が弱い。カゼミーロが合流した時点で、カゼミーロをアンカーに配した4-3-3にするか、2ボランチでもどちらかはカゼミーロになるだろう。
ここで疑問なのが、カゼミーロのバックアップがはっきりしていないこと。カゼミーロがいない場合の第一オプションは、モドリッチ&クロースかクロースのアンカーというのがプレシーズンマッチからうかがえる対策なのだが、その脆弱性はすべての試合ではっきり出てしまっている。しかし、起用の仕方をみるかぎりモドリッチ&クロースが代案になっている可能性は否定できず、ボランチ兼任ということを考えると久保よりも適任のMFがいるので久保のトップ入りは遠のくと考えられる。
ワールドカップでベスト4を狙える陣容へ
ジダン監督が久保のカスティージャ行きを示唆したことで、現時点で久保のトップチーム入りの可能性はかなり低くなった。ただ、開幕後に昇格するチャンスはあるだろう。
攻撃面ではトップでやれる力を示している。プレシーズンマッチとはいえ、レアルの試合は他に比べるとインテンシティは高めだった。公式戦の激しさはないにしても、完全なエキシビションという感じでもなかった。
もし、クラブチームの最高峰にいるレアル・マドリーで日本人がレギュラーポジションを獲得するとしたら、日本サッカー史上の快挙になる。この夏、Jリーグから例年にない数の若手選手が欧州へ移籍した。すべてが上手くいくわけではないにしても、ステップアップしていく選手もいるだろう。
日本代表はすでにレギュラーの大半が欧州のクラブに所属するようになっているが、数年後にはさらにトップ・オブ・トップのレギュラーが数人含まれるようになっていても不思議ではない。そのときはワールドカップでベスト4を狙うに相応しい陣容が整った状態といえる。
(文:西部謙司)
【了】