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Jリーグ 5年前

“ミシャ式”では何が起こっているのか? それはポジショナル・プレーの先駆者だった【ミハイロ・ペトロヴィッチの哲学・前編】

サンフレッチェ広島を5年、浦和レッズを5年、2018年から北海道コンサドーレ札幌を指揮し、これまで常にチームを自分の色に染め、選手も成長させてきたミハイロ・ペトロヴィッチ監督。“ミシャ式”はJリーグにおいて10年以上汎用され続けているが、その独特の指導法にはどのような哲学があるのか。8/6発売の『フットボール批評 isuue25』から、一部抜粋して発売に先駆けて前後編で公開する。今回は前編。(取材・文:西部謙司)

text by 西部謙司 photo by Editorial Staff

日本サッカーの嗜好性に合っていて、選手も観客も楽しめる

ミハイロ・ペトロビッチ
北海道コンサドーレ札幌を率いるミハイロ・ペトロヴィッチ監督【写真:編集部】

 サンフレッチェ広島でミシャ式が開始されたとき、対戦相手には何が起きているのかよくわからなかった。

 キックオフ時のフォーメーションは3-4-2-1だが、攻撃と守備でポジションが大きく変わっていく。ボールを奪おうと追い回しても広島から奪うことはできず、いつのまにかボールはリレーされてしまう。フィールドのあちこちで広島の選手がフリーになっている。プレーしている人数が違うのではないかと思えるほどだった。それから、すでに10年以上経過した。

 ペトロヴィッチ監督は広島から浦和レッズへ移り、現在は北海道コンサドーレ札幌を率いている。ミシャが浦和へ去った後のチームを預かった森保一監督は、ミシャ式を継承してJ1で3回のリーグ優勝を成し遂げ広島の黄金時代を作った。ミシャと森保の下でコーチだった片野坂知宏は現在、大分トリニータの監督としてミシャ式を採用している。

 ミシャ式はもう謎の戦術ではない。すっかり手の内は知られている。対抗策もたくさん出てきた。しかし、今季のJ1でも札幌と大分がこの方式を採っていて成果もちゃんと出しているのだ。

 ミシャ式自体も変化し、進化しているのだが、その裏には戦術的なメリット以上のものがあるように思える。日本サッカーの嗜好性に合っていて、選手も観客も楽しめる。そして選手が上手くなる。これがミシャ式を長く存続させているのではないか。

ビルドアップ時のフォーメーションの変化

 ビルドアップのときにミシャ式はフォーメーションを変化させる。3バックの両サイドが開いてサイドバックとなり、ボランチの1人がその間へ下りてきて4バックになる。もう1人のボランチはそのままの立ち位置だが、ウイングバックは大きくポジションを上げ、2人のシャドーは相手のボランチの背後に立つ。

 簡単にいえば、5-4-1の守備から攻撃で4-1-4-1または4-3-3に変化するわけだが、当然一瞬で変化するわけがない。過程がある。

 変化の原則は、敵のプレッシャーラインから外れること。最初は3バックの左右が敵の2トップの正面から外へずれていく。次にボランチが下りていくことで、敵のFWからずれたポジションを作る。

 こうして次々に敵のプレッシャーラインからずれたポジションを作り出す。相手からすれば、捕まえたと思ったら他の選手がずれている。この原則はポジショナル・プレーそのものなので、ミシャ式はポジショナル・プレーの先駆だったといえるかもしれない。

 ポジショナル・プレーとの共通項といえば、GKのビルドアップ参加もそうだ。ビルドアップにGKが参加し、そのことで敵のフィールドプレーヤー10人に対して11人でパスを回す構図が決まる。これも画期的だった。

 ただ、ミシャ式、ポジショナル・プレーといっても、それ以前になかったわけではない。相手のプレッシャーラインに乗らない立ち位置は昔からある原則である。それこそスコットランドがパスゲームを始めたときからあっても不思議ではない。ミシャ式はその原則を拡大して結合させたものにすぎない。

 とはいえ、原理原則が自然とミシャ式を生み出したわけではなく「形」から入っている。決められた変化の形をなぞることで、原理原則の効果を出していった。

後編はこちら

(取材・文:西部謙司)

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『フットボール批評issue25』

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