鹿島が強い理由
第20節、サガン鳥栖戦で勝ち越しの2点目をゲットした。試合後、大岩剛監督は白崎凌兵について、「守備では周囲に思われている以上に貢献している」と話した。同時に、「得点にこだわるように伝えている」とも。
4-4-2の左サイドハーフでプレーする白崎は今季から加入した選手だが、そのプレーぶりは、「なぜ鹿島が強いか」の理由そのものといえる。
Jリーグで最も多くのタイトルを獲得している鹿島だが、とくにインパクトのあるプレーをしてきた印象はない。例えば、J開幕時のヴェルディ川崎、鹿島と覇を競った時期のジュビロ磐田、西野朗監督時代のガンバ大阪、ミシャ式で席巻したサンフレッチェ広島……強い印象を残した数々のチームの栄枯盛衰の狭間で着々と勝っていった。
いわばごく普通のサッカー。ブラジル由来の4-4-2なのだが、ジャパン・ウェイそのものといえるようなスタイルで比較的地味に勝ちを重ねてきた。
個々の能力は高い。だが、鹿島の強さはそれ以上にチームとして崩れないところにある。白崎への期待は「守備での貢献」であり、同時に「得点」である。鳥栖戦は、まさにその期待どおりのプレーぶりだった。
「監督からは、チームのために動きながらも得点に『こだわれ』と言われています。得点をとれる場所を少しずつつかみつつあります。ただ、そのために守備をさぼろうとは思わない」(白崎)
チームの一部、組織の歯車として機能しつつ、個の能力を発揮できる瞬間も逃さない。どちらか一方ではなく、どちらも諦めないところに鹿島らしさがある。
チームマンの個人技
鹿島といえば4-4-2だが、このシステムにもいろいろある。鳥栖戦についていえば、左右のバランスは微妙に違っていた。
「右のレアンドロはごりごり行くタイプですが、逆に自分はシンプルにプレーしてリズムを出していくようにしています。皆が仕掛けてしまうとリズムは出なくなってしまうので。パスを出して動いてリズムよく、周囲が気持ちよくプレーできるように」(白崎)
大半の時間で、白崎は目立たない。少ないタッチでテンポよくボールを動かし、守備では決してポジションに穴を空けることがない。サイドバックと連係しながら、定石どおりにしっかり守る。
「もともとエゴを出すタイプではない」(白崎)
他の選手たちもそうだが、白崎はチームマンでありハードワーカーだ。そういうチーム編成だから、どんな相手に対しても大崩れすることが少ない。ドリブルが素晴らしい、スルーパスのセンスが抜群、空中戦最強……そうした「個」が違いを作り出し、試合を決めるのもサッカーではある。しかし、そうした才能が現れるのは90分間のうち数分間、あるいは数秒にすぎない。大半の時間はチームの歯車の1つとして機能することになる。一部の例外はあるにしても、才能があるから守備をしなくてすむほどJ1は甘くない。
「得点の味を思い出しているところ」
一方、それだけでは鹿島のようにタイトルを獲り続けることはできない。歯車として機能しながら、ここという瞬間には個を発揮して違いを作る必要がある。
鳥栖戦の35分、右サイドをレアンドロが抜け出した瞬間、反対サイドにいた白崎は一気に加速してペナルティーエリアへ入って行った。
「自分の印象では、鹿島のサイドハーフはあまりクロスボールに対して入って行くイメージがなかった。オイシイところに入って行かないなと。そこにいればボールは来る。今は、得点の味を思い出しているところです」(白崎)
レアンドロの低いクロスへ突っ込む白崎に対して、DFはいち早く進路を塞いでいた。「こっちでは触れない」と感じた白崎は、とっさにDFの背中から回り込んだ。
「あそこへボールが来なければ勝てるポイントがなかったので、『来てくれ』という感じでしたね。あとは足を伸ばして当てただけ」(白崎)
DFの背後から伸ばした足のアウトサイドに当てたシュートは、跳ね上がってGKの頭上を越えてゴールイン。シュートの軌道そのものは狙ったわけではないが、勝負どころで先にボールに触れたこと、それ以前に「そこ」へ走り込んだことが得点につながった。
89分間何もしないが、1回のプレーでゴールを決めてしまうような選手はいる。しかし、90分間ハードワークしたうえでゴールも決めてしまえるなら、そのほうがいいに決まっている。個と組織プレーのバランスは簡単ではないが、どちらも貪欲に追求していくのが鹿島らしさであり、数々のタイトルを獲れてきた理由の1つだろう。
(取材・文:西部謙司)
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