PSGに足りないものとは
他のクラブとは、予算、戦力ともに桁違いのPSGは、リーグ優勝は当たり前、それプラスなにを勝てるか、という基準で見られているから、その部分での厳しさはある。
2年連続で、シーズン後半の、CL決勝トーナメントに突入する大事な時期にネイマールが負傷するという誤算もあった。たらればを言っても始まらないが、ユナイテッドとの第2戦にネイマールがいたらディフェンス面の負担は相当違っていただろうから、結果が変わっていた可能性は十分にある。
ただ、今季のPSGの顛末を見て感じたのは、欧州のビッグクラブに真に仲間入りするには、まだ彼らには、歴史であるとか、それまで築いてきた蓄積が足りない、ということだ。
勝ち抜けは不可能と言われたPSG戦の前、ユナイテッドのオーレ・グンナー・スールシャール監督や選手たちは、ことあるごとに「我々はマンチェスター・ユナイテッドなのだから」と言っていた。
ファン以外の人には「ケッ」と言いたくなるセリフであるし、彼らも次ラウンドで敗退しているので、毎回効くわけではもちろんないが、過去にCL優勝はもちろん、前人未到のトレブルなど数々の栄光を実現している彼らには、ここぞというときに信じられる拠り所がある。しかしPSGにはまだ、それがない。
いくら世界のトップスターを集めても、その空洞はそう簡単には埋められない。もちろん彼らもそれをわかっていて、その最初の一歩を踏み出すためにもがいているのだが、カタールの親方たちや、ナセール・アル・ケライフィ会長らが当初思っていたよりもずっと、その最初の一歩は難しかった。
6月末に、PSGはナイキとのスポンサー契約が2032年まで延長されたことを発表した。価格、期間ともに大幅アップし、レアル・マドリー、バルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドに次ぐ高額のユニフォームサプライヤー契約になるという。
ナイキはキリアン・ムバッペを少年時代からバックアップしているから、ムバッペを今後もPSGの顔としてつなぎ止めておきたい意図も見え隠れするが、そういったこと以上に彼らに足りないのは、スピリッツ、といった、目に見えないものの蓄積であるような。
周りが立派でも中が空洞のままでは、あるところまでは行けても、その先には行けない、という、同じことを繰り返すだけのような気がする。
(文:小川由紀子【フランス】)
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