最後に“悪者”で終わったのは…
12年ぶりにコパ・アメリカを制したブラジル代表の選手たちや、チッチ監督、さらにはペルー代表のリカルド・ガレカ監督も決勝後に辛辣なコメントを残している。おそらく審判への批判以上に、「腐敗」を指摘したことが彼らの神経を逆撫でしたのだろう。
「メッシほどのクオリティを持った選手がそういうこと(審判への批判や大会の腐敗について)を言うのには、腹が立つ。審判たちはこれまでバルセロナのために、そして彼の代表チームのためにたくさんのものを与えてきた。その時、彼は『腐敗』について話していない。彼は負けたのなら、それを受け入れなければならない」(マルキーニョス)
「僕はメッシに同意はしない。僕らはこのタイトルを勝ち取るために本当にたくさんの努力をした。彼が怒るのは理解できる。でも、この喜びを彼と共有することはないよ。だって、買われたものだって言うんだろう? メッシに電話するか? いいや、今日はお祝いだよ(笑)」(ダニ・アウベス)
「私はメッシのことを地球外の選手だと思っているが、彼はもう少し敬意を示すべきだ。我々もこの大会やワールドカップの幾つかの試合でトラブルに遭った。人々は皆、彼の言ったことに注意しなければいけない。誰もに自分自身の立場や状況があるので、彼が不当に退場させられたからああ言ったということは理解したいがね」(チッチ監督)
こうしてコパ・アメリカはブラジルの勝利、そしてある意味でメッシの“敗北”で終わった。退場した彼の姿は様々な負の側面を押しつけられた大会の“悪者”のようだ。だが、一連の流れは自然にできたのではなく、メディアによって生み出されたとも言えるような気がしている。
ブラジルや南米の多くのファンにとってコパ・アメリカはお祭りであり、その他大勢にとってもカーニバル的なイベントでしかない。その中でサッカーの世界の中における「世論」を作り出すのはメディアの発信力だ。影響力を発揮するには流れに逆らうわけにはいかない。例えば大会中にレアル・マドリー移籍が決まった久保建英への注目もそう。改めてメディアの作り出す力の大きさをまざまざと見せつけられた。
優勝候補筆頭として大会前から持て囃されたブラジルは終始膨大な数のメディアに囲まれ、ネタになると目をつけられたら良くも悪くも全てが様々な形となって世の中に届けられる。決してポジティブな声ばかりだったわけではない。
そのうえ開催国という重圧がある中でも、周囲に雑音に惑わされず団結力と個々の気持ちの強さを保ったブラジルは真の勝者だ。人徳に溢れ、強烈なリーダーシップでチームを束ねるチッチ監督の下で一丸となって戦い抜いたセレソンの力強さに最大限の称賛と精一杯の敬意を表したい。
(取材・文:舩木渉【コパ・アメリカ】)
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