「過去の栄光や積み上げてきたものには興味がない」
── 先ほど、練習を終えた小林慶行コーチに梁選手のことを少し聞きました。『ベテランの域に入って途中出場が多くなると、誰もがコンディションを維持する難しさに直面する。それなのに、常に90分動ける身体をキープしているのは驚異的』だと。
「トシをとると、さまざまな見られ方をします。だからこそ、負けたくない。そういう気持ちはありますね。もう35歳を超えたから60分くらいしか動かれへんやろ、という決めつけは好きではないので。しっかり走れるように日頃からトレーニングをやっているつもりです。そんなふうに言われたくない意地みたいなもの」
── 年齢相応の選手像を押しつけられるのに抗う?
「なんやろ。サッカー界全体、どうしても若い選手に目が向く流れがあるでしょ。トシをとってもやれるのを見せたいし、その立ち位置を受け入れてしまうと自分の辞めどきも近づいてくる。それなら意地でもやったるわと。それがモチベーションの一部になってますね」
── 今年でプロ16年目を迎え、昨年Jリーグ通算500試合出場も達成しています。小林コーチは『周囲に輝かしい実績を誇ったり、立場に甘んじるところもない』とも。
「大事なのは、いまがどうか。仮に自分がそういう態度を出したとして、若い選手からすれば、いまはちゃんとプレーできてんの? 昔の自分にすがってるだけと違う? という話になる。いまは、いまですよ。過去の栄光や積み上げてきたものには興味がない。37歳の梁勇基として勝負している。そういう感覚です」
── この年齢に達する前から、そうなるまいと自身の戒めとしてきた?
「周囲を納得させるプレーができてなかったら、言葉に説得力がない。過去に何百試合出ていたといっても、そんなの関係ないです。後輩に対して、これまでの功績を見せびらかすことしかできない先輩。ダサいでしょ?」
(取材・文:海江田哲朗)
▽梁勇基
1982年1月7日、大阪府生まれ。阪南大学から04年にベガルタ仙台に加入。3年目の06年から背番号10を背負い、ベガルタの不動のバンディエラとして君臨。今季で16年目を迎える。昨年Jリーグ通算500試合出場を達成。北朝鮮代表としては08年に初招集されるも10年南アフリカW杯のメンバーには落選。その後もAFCアジア杯などで代表を牽引する活躍を見せた。
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