チリ代表はVARの存在によって2つのゴールが認められず…【写真:Getty Images】
コパ・アメリカ2019(南米選手権)ではVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)が存在感を増している。
全ての試合で一度はVARによって流れの止まる時間帯があるほどだ。29日の準々決勝ウルグアイ対ペルーでは、VARによってオフサイドが見抜かれ、ウルグアイの3つのゴールが認められなかった。
さらに28日の準々決勝チリ対コロンビアでも、チリの2つのゴールが取り消されている。1つ目は序盤の16分、チャルレス・アランギスがゴールネットを揺らしたシーンの直前でオフサイドがあったとしてゴールは無効に。
71分にはアルトゥーロ・ビダルのシュート直前にギジェルモ・マリパンがハンドを犯しており、ビデオレビューの結果ゴールは認められなかった。これら2度のVARの介入があったことで、90分を終えて0-0のままPK戦へ。最終的にチリが勝ち抜けを決めたが、後味の悪さは残った。
果たして現場で取材しているチリの記者たちは2度のゴール取り消しについてどう思っているのか。改めて取材すると、チリ紙『ラ・テルセーラ』のクリスティアン・バレラ記者は「2度のVARによる判定は妥当だったと思う」と自らの見解を述べてくれた。
「確かに2度目のマリパンのハンドの場面は微妙だった。ビデオレビューはしなくてもよかったのかもしれないが、VARの助言があれば主審があの場面を見直す判断も理解はできる。1つ目のアランギスがシュートした場面でのオフサイドは仕方ない。VARや主審の判断を尊重しなければならないね」
南米ではVARに対する否定的な見方も少なくない。コパ・アメリカでは初導入となるテクノロジーに対し、エクアドル代表FWエネル・バレンシアは「VARはすごく複雑で、できれば避けたい。場合によってはマリーシアをなくすこともある。ストリートでのサッカーをうまく取り入れられない。VARは我々にとってあまり良くなかったが、その現実に慣れなければいけない」と南米独特の良さが消えてしまうことを懸念していた。
同じくエクアドル代表のエルナン・ダリオ・ゴメス監督も「相手の選手がどれだけ叫ぶのか、どれだけスキャンダラスな振る舞いをするのかが重要になっている。大げさにやるとVARが確認される。VARは毎回使われるべきではない」と、主審の判断にブレが生じている可能性を危惧していた。
コロンビア代表のカルロス・ケイロス監督も「これまでの100年間、ゴールは明らかなものだった。主審がピッチ上で見たものから、決断を下す」と、主審たちがVARの助言に頼りすぎている現状に怒りを示す。
先に登場してくれたバレア記者も「確かに南米の主審はVARに頼りすぎな傾向はあるかもしれない。彼らは自分の見たものを信じず、VARの助言があればすぐにビデオを見直しにいっている。ハッキリと判定が間違っているのならビデオを見直せばいいし、そうでないなら自分の目をもっと信じてもいいはずだ。VARによって試合の流れが止まってしまうという影響もある」と、コパ・アメリカでのVARの現状を分析していた。
ただ、VARの導入そのものには賛成の立場だという。バレア記者は「サッカーはよりフェアであるべき。ずる賢さがなくなってしまうと言われているのも知っているけれど、VARがあればサッカーはもっとフェアなスポーツになる」と語った。
チリ代表は最終的にコパ・アメリカ準決勝進出を決めている。だから「賛成」できるのだろうか? あくまで結果論と見ることもできる。だが、バレア記者は「勝ったから? いや、もしコロンビアに負けていてもVARの導入には賛成ということは変わらない。フェアであることこそが重要だ」と強調した。
VARはあくまで主審のジャッジをサポートするためにあるもの。もしレフェリーたちが「VARがあるから…」と曖昧な働きをしたら、試合はいびつなものになってしまう。例えばビデオを確認すると、ごくわずかな飛び出しのように「見えなかったもの」や「見えるはずのないもの」がオフサイドとして「見える」ようになってしまうのだ。それではレフェリーが「裁く者」から「進行役」でしかなくなってしまいかねない。
守らなければならない一線は間違いなく存在するし、試合中にあらゆる最終決定を下す主審は、まず自分の目で見た物を信頼して判断しなければならない。準決勝以降、VARはコパ・アメリカにおいてどんな“活躍”を見せるか注目だ。
(取材・文:舩木渉【ブラジル】)
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