VARに阻まれたチリ
ブラジル、アルゼンチンの南米2強が苦しい試合を何度か見せる中で、優勝候補の一角に数えられるコロンビアとチリが激突した準々決勝。ともにグループステージから実力を見せつけていただけに、好勝負が期待された。
3戦無失点でグループBを首位で通過したコロンビアは、ターンオーバーをした第3戦から9人を変更。ルイス・ムリエルは怪我のためにチームを離れたが、パラグアイ戦でベンチを外れていたGKダビド・オスピナも先発に復帰した。
一方のチリは、グループC2位で決勝トーナメントに進出。こちらもグループステージで2連勝スタートとなり、第3戦ではメンバーを変え、3バックをテストしていた。この試合では4人を変更し、第2戦までの4-3-3の布陣で臨んだ。
ゴールネットを揺らしたのはチリ。16分、左サイドでボールを受けたアレクシス・サンチェスがカットインから、オーバーラップするジャン・ボセジュールへスルーパス。低いクロスを出すとコロンビアGKオスピナと、DFダビンソン・サンチェスが交錯。こぼれたボールに反応したチャルレス・アランギスがゴールに流し込んだ。
一度は主審がゴールの判定をしたものの、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の助言により、直前のシーンがオフサイドとなり、ゴールは認められなかった。
再びゴールネットが揺れたのは71分。チリはペナルティエリア左からサンチェスが浮き球を中に入れると、ギジェルモ・マリパンに当たって後方に落ちたボールをアルトゥーロ・ビダルが決めた。
しかし、これも再びVARによる助言が入る。オン・フィールド・レビュー(OFR)の結果、マリパンの手に当たっていたとして、ゴールは認められなかった。
クアドラードの負担過多
2度、VARによって救われたコロンビア。スタートポジションは4-3-3で、中盤にフアン・クアドラード、右WGにハメス・ロドリゲスが入る。しかし、敵陣に入るとハメスがトップ下、クアドラードが右WGのような形に変形する可変システムをコロンビアは用いている。
ハメス・ロドリゲスの守備の負担を減らしつつ、攻撃時には2人の特性を生かすシステムだが、上下動が要求されるクアドラードの負担は大きい。グループステージでは3試合ともクアドラードは先発しているが、すべて60分前後で交代。それだけハードワークが要求される役割なのだ。
70分のシーンでは、コロンビアのFKからチリはサンチェスがロングカウンターを狙う。PA内にいたクアドラードは、懸命のプレスバックでサンチェスに追いつくと、後ろから出した足がサンチェスに当たってファール。クアドラードにイエローカードが提示された。
しかし、この場面でクアドラードのスプリントがなければ、コロンビアは4対3の状況を作られていただけに、彼の献身にコロンビアは助けられた。
だが、結果的にこれがピンチを生むことになる。このファールのリスタートから71分のビダルのシュートは生まれている。クアドラードは、右サイドからのクロスをPA内のファーサイドで構えるが、イエローカードをもらっているからか、ビダルとの間合いを詰めることができなかった。
結局、スコアレスのまま後半が終了。今大会では準々決勝のみ、90分を同点で終えた場合は延長戦に入らずにPK戦に突入する。
3連覇にふさわしいチリの執念
先攻のコロンビアは、ハメス・ロドリゲス、67分に入ったエドウィン・カルドナ、クアドラード、ジェリー・ミナが立て続けに成功。一方のチリも、ビダル、エドゥアルド・バルガス、エリック・プルガル、アランギスが決め、4-4で5人目を迎えた。
コロンビアの5人目は左SBのウィリアム・テシージョ。しかし、左足から放たれたボールは左の枠外へと外れた。
後攻のチリはエースのサンチェスが5人目。緩やかな助走から放たれたボールは右隅へと決まる。5人全員がPKを成功させたチリの準決勝進出が決まった。
チリは4人目までは全員左側に高いボールを蹴り込んでいる。対するコロンビアGKオスピナもそれを読んでか、3人目から左側に跳んでいるが、プルガルはそれを見て中央よりに位置をずらして決めている。
さらに、4人目のアランギスのシュートは、身長183cmでリーチに欠けるオスピナが届かない隅に正確にシュートを決めている。さらに、コースが読まれていると悟った5人目のサンチェスは、冷静に右側にゴールを流し込んだ。
今大会ではここまで、準々決勝3試合中2試合がPK戦に突入。準々決勝のみ延長戦がないために、PK戦へともつれる可能性は必然的に高くなる。
チリのキッカーたちは、戦略的に左上を狙っていたように見える。見抜かれていることに気づいてコースを変えたプルガルと、反対側を狙ったサンチェスの判断力は見事だった。そして、用意周到なチリの勝利への執念は、3連覇を狙うにふさわしいと分かった一戦だった。
(文:加藤健一)
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