世界遺産のイグアスの滝をブラジル側から堪能【写真:舩木渉】
ブラジルの魅力はサッカーだけではない。残念ながら日本代表はグループリーグ敗退に終わってしまったが、コパ・アメリカ2019(南米選手権)の開催中にできる限り他のことにも挑戦してみようと思い立った。
向かったのはパラナ州の端、フォス・ド・イグアス。リオデジャネイロやサンパウロから飛行機で2時間ほどでたどり着ける、名前の通り世界自然遺産の「イグアスの滝」観光で拠点になる街だ。
一生に一度あるかないかの機会に、見ておきたかったのがイグアスの滝だった。空港のすぐ近くにある国立公園の入り口から2時間ほどかけて雄大な自然の織り成す絶景を堪能し、轟音を立てて流れ落ちる壮大な滝の数々を目に焼き付けた。大自然の威力の凄まじさを肌で感じることができた。
その後、また別の珍しい体験をすることができた。フォス・ド・イグアスはアルゼンチンやパラグアイの国境と接しており、パラグアイ側のシウダド・デル・エステには街中から歩いて橋を渡ってたどり着くことができる。
しかもパラグアイは日本のパスポートがあればビザなしで入国できるため、またとないチャンス。歩いて国境を越えることにした。日本にいると馴染みはないが、陸続きだと国境は味気ないもの。橋の途中で欄干の色が変わる地点があり、そこが国境になっているという。気づかなければそのまま通り過ぎてしまうようなあっけなさだった。
国境線は川の上に。赤がパラグアイ側で、緑がブラジル側となっている【写真:舩木渉】
パラグアイ側の国境の街、シウダド・デル・エステは首都アスンシオンに次ぐ第2の都市だ。川の対岸からは非常に栄えて見えたが、降り立ってみると真っ暗で人がほとんど歩いていない。夕方18時過ぎにもかかわらず商業施設はほとんど閉まっていて、街中に活気はなかった。
ようやく明かりのついた場所を見つけると、そこは中華料理店だった。その名も「レストランテ・ラッキー」。まさに「ラッキー」としか言えない出会い。日本で食べるのと変わらないクオリティのおいしい空芯菜の炒め物や餃子などを、日本では考えられないほどの安価で堪能することができた。
シウダド・デル・エステにあった「レストランテ・ラッキー」の外観【写真:舩木渉】
しかも店内ではちょうど、コパ・アメリカの日本対エクアドルの試合を再放送していた。直後の時間帯には準々決勝のブラジル対パラグアイが始まる。本来はその熱狂を国境地帯で感じるために訪れたのだが、完全に肩透かしに終わってしまったので、店員に「今日の試合、どっちが勝つと思う?」と尋ねてみた。
パラグアイ人の店員、フアンは「もちろんパラグアイが勝つさ! 2-0くらいかな。まあ、勝てるならPK戦でも構わない」と自国代表のことを誇らしげに語る。一方、横で聞いていたアルゼンチン人の店員、パブロは「ブラジルに勝てるわけないだろ…」と苦笑いを浮かべる。
「レストランテ・ラッキー」のパラグアイ人店員フアン【写真:舩木渉】
ブエノスアイレス出身だというパブロは、「明日のアルゼンチン対ベネズエラは、3-1で俺たちアルゼンチンが勝つよ」と、やけにリアルなスコア予想までしてくれた。その後、ブラジル対パラグアイは0-0のままPK戦に突入し、最後は4-2でブラジルが勝利。フアンの予想は惜しくも外れてしまった。母国の健闘と敗退に、彼は今何を思っているだろうか。
正直なところ、やはりコパ・アメリカの盛り上がりがブラジル全土に広がっている印象はない。テレビで放送していれば人は集まってくるが、全国民が熱狂しているほどではないようだ。
そしてブラジルとパラグアイの国境地帯では、良い意味で両国の文化が混じり合っている。「レストランテ・ラッキー」ではメニューの価格が米ドルで表示されていて、支払う通貨に応じてその場で換算してくれる。もちろんブラジル・レアルでの支払いも問題なくできた。
人々はポルトガル語とスペイン語を器用に使い分けられ、国境で接している両国間にわだかまりもない様子。ひっきりなしに国境を人と車が行き交う。イグアスの滝は見る者を圧倒する威厳と自然の力の凄まじさを実感させてくれた。
見知らぬ日本人を快く受け入れてくれた「レストランテ・ラッキー」の店員たちや、最後にブラジル側でタクシーがつかまらず困っていたところを助けてくれたクライアおばさんなど、人々の温かさにも触れることができた。たった1日ではあったが、ブラジルや南米の多様な魅力を感じられる充実の旅となった。
(取材・文:舩木渉【ブラジル】)
日本パスポートがあればパラグアイ入国にビザは不要。歩いて10分ほどで国境を越えることができた【写真:舩木渉】
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