怪我人を抱えるブラジルと、策を講じたパラグアイ
グループAを1位で突破したブラジル代表だが、カゼミロが累積警告による出場停止で、フェルナンジーニョもペルー戦に続いてベンチ外。さらには今大会2試合に先発していたリシャルリソンがおたふく風邪により欠場。経験のあるボランチ2人を欠く中盤にはアランが入り、アルトゥールとコンビを組んだ。
一方のパラグアイ代表のエドゥアルド・ベリッソ監督は、2016/17シーズンにセルタをUEFAヨーロッパリーグ準決勝進出へと牽引。チリ代表アシスタントコーチ時代にマルセロ・ビエルサの参謀を務めた指揮官は、この試合に向けて策を講じてきた。
左サイドバックとしてグループステージ3試合に先発していたサンティアゴ・アルサメンディアを一列前に起用し、ブラジル右SBのダニエウ・アウベスとマッチアップ。お互いのCBのみが1枚ずつ余る形で、それ以外の選手をマンマーク気味に守ることで、ブラジルの攻撃を封じようとした。
パラグアイは、ポジションを捨てても人に厳しく寄せることでブラジルに自由を与えない。ブラジルの攻め込む時間は長いものの、なかなかチャンスをものにすることができずにいた。パラグアイは時折中盤でボールを奪うと、ロングカウンターからゴールを狙うが、得点は奪えなかった。
試合の流れを変えた1プレー
試合の流れが大きく変わったのは54分。ディフェンスラインの裏に抜けたフィルミーノにファビアン・バルブエナの足がかかってしまい、PKの判定。しかし、これがビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)の助言により、オン・フィールド・レビュー(OFR)を経て、PA外のFKへと判定が変更。決定機を阻止したとして、バルブエナにレッドカードが与えられた。
このプレーを巻き戻してみると、ブラジルは中盤右サイドでジェズスがボールを受け、相手DFを数人はがしたことで、左CBのグスタボ・ゴメスが前に出て対応。その空いたスペースにフィルミーノが斜めのランニングで走り込んだために、右CBバルブエナの対応は遅れてしまった。
相手DFをはがしてCBを前に出させたジェズスの個人技と、その空いたスペースを見逃さずに突いたフィルミーノの巧さが目立った場面だった。
しかし、一発退場となったものの、バルブエナのこのプレーは責められない。一歩でも対応が遅れていればフィルミーノはGKとの1対1となっていたし、足がかかるのが少しでも遅れれば、PA内に侵入されてPKとなっていたことだろう。
PK戦を制したブラジル
10人になったパラグアイは、4-4-1の配置で自陣に引きこもることを余儀なくされる。ブラジルは敵陣にフィールドプレーヤー全員が入り、パラグアイ守備陣を押し込む。
ブラジルは71分にボランチのアランを下げ、ウイングのウィリアンを投入。85分にはダニエウ・アウベスに代えてルーカス・パケタを入れる。エベルトン、パケタ、フィルミーノ、ジェズス、ウィリアンが高い位置に並ぶ形になった。
OFRの影響もあり、7分の時間がとられた後半アディショナルタイム。コウチーニョのシュートはGKに阻まれ、ウィリアンの左足ミドルはポストに直撃するなど、決定機をいくつも作るものの、ブラジルは最後までゴールをわることができなかった。
90分の終わりを告げるホイッスルが鳴った瞬間、パラグアイの前線で走り続けたデルリス・ゴンザレスは倒れ込み、点を見上げた。一方のブラジルの面々は負けたかのような表情を浮かべながらピッチサイドへと歩いて行った。
今大会では、準々決勝に限り、90分を同点で終えた場合は延長戦を行わずにPK戦へと突入するレギュレーションが採用されている。それだけに、90分で決める必要があったブラジルには、プレッシャーがのしかかるPK戦となった。
先攻パラグアイ1人目のグスタボのキックはアリソンがセーブ。両チーム合わせて6人連続で成功したが、ブラジルは4人目のフィルミーノが枠外に外してしまう。さらにパラグアイ5人目のデルリス・ゴンサレスのキックも、枠外へと外れた。最後はジェズスが決め、4-3で開催国ブラジルがPK戦を制し、準決勝に駒を進めた。
PK戦でのブラジルGKアリソンのプレーには、緻密な駆け引きが濃縮されていたように見えた。
PK戦に見るGKアリソンの駆け引きとは
パラグアイ1人目のキッカーを務めたゴメスのキックは完全に読んでいた。しかし、パラグアイ2人目のミゲル・アルミオンのキックは、反対側に飛んでしまう。1本目は読みが当たったのか、データ通りだったのか判別はつかないが、2本中1本を止めたアリソンが、PK戦の主導権を握る形となった。
3人目のブルーノ・バルデスのキックは左側の少し甘いコースへと飛んだが、アリソンはキックに反応して跳んだために、これを防ぐことはできず。4人目のロドリゴ・ロハスのシュートにも反応したが、ボールは左上隅に飛び、防ぐことはできず。
3人目、4人目と、止めることはできなかったアリソンだが、コースを読む作戦から、シュートに反応する形に変えたことで、結果的にシュートコースに跳ぶことに成功。5人目のゴンサレスには、「コースを狙わなければ」というプレッシャーがかかっていたことだろう。
果たして、ゴンサレスのシュートは左側に外れた。
リードしていたブラジルのアリソンは、3人目、4人目に餌を巻くことで、5人目の失敗を誘った。これが事前の狙い通りか、直前のアリソンのひらめきかはわからない。もしかしたら、結果論に過ぎず、深読みのし過ぎかもしれないが、ブラジルの窮地を救ったのは、間違いなくアリソンのプレーに他ならないだろう。
(文・加藤健一)
【了】