一概には言えない決定力不足の原因
勝てば準々決勝に進出し、開催国ブラジルに挑めるという状況で迎えたエクアドル戦は1-1で引き分け。ベスト8の最後の枠は日本でもエクアドルでもなく、パラグアイに渡った。まさに痛み分け。若き日本代表は何度もそのチャンスを得かけながら掴み取ることができなかった。
決定力不足。そう言ってしまえばシンプルだが、それぞれのチャンスにはそれぞれのシチュエーションがあり、一概に要因を言い切れないテーマだ。最後にゴールネットを揺らすもオフサイドの判定により、殊勲の決勝点を記録できなかった久保建英は悔しい気持ちを認めながらも「本当に自分が言えるのは入るときもあれば入らないときもありますし、みんなシュート練習でも、いい日もあれば入らない日もあるので、そこはもう結果論でしかない」と持論を語った。
オフサイドでノーゴールになったシーンについては「オフサイドだったので力不足とかはなかったですけど。しっかり枠に入れたので」と振り返った久保。そのシーン以上に「悔しい」と語るのが、その前にあったチャンスを決められなかったシーンだ。
客観的には彼のラストパスから途中出場の上田綺世や前田大然が絶好のチャンスに決めきれなかったプレーが浮かぶが、久保が具体的にあげたのは自分が決められなかったシュートについてだった。
「三好(康児)選手からいいボールがきて、ちょっと足下に入っちゃったりとか。個人的にはもったいないかなとハーフタイムに話してました」
久保建英が「もったいない」と話したシーン
その“もったいない”シーンはエクアドルに同点ゴールを決められた2分後に訪れた。
キックオフ直後のビルドアップから右のスローインを獲得した日本。右サイドバックの岩田智輝が前方に投げたボールを相手がクリアしようとして蹴り損ねたボールにボランチの柴崎岳が素早く反応してボールを拾うと、背後から寄せてくるジェクソン・メンデスを制しながらインサイドのスペースで構える中島翔哉にグラウンダーのパスを送る。
中島は得意のドリブルで前進しながら4人のディフェンスを引きつけ、左のスペースを走る杉岡大暉に展開。左足でうまくコントロールした杉岡は山なりのクロスをゴールのファーサイドに送ると、三好が待つ手前で左サイドバックのクリスティアン・ラミレスに頭で触られてしまうが、外にこぼれたボールを三好が拾って岩田に戻した。
インサイドでショートパスを受けた久保が左足のコントロールから、メンデスとカルロス・グルエソの間の狭いところに鋭く仕掛け、さらにラミレスとマッチアップしながらディフェンスを引きつけて、再び岩田に戻した。
その動きに合わせて柴崎がフォローに来ると、久保、柴崎、さらに岩田をエクアドルのディフェンスがはめに来たことで、アウトサイドの三好がフリーに。岩田が素早く三好に出すと、ウルグアイ戦で2得点を決めたレフティーは縦に仕掛けることで、久保に付いていたラミレスと岩田をチェックに来ていた左サイドハーフのロマリオ・イバーラを引きつけ、その間からインサイドへのパスを出した。
三好と久保の間を走る岩田の後ろを通ったボールは久保の足元に入る。左足でピタリとコントロールしながら中を向いた久保に対して、メンデスとカルロス・グルエソが対応したが、久保は構わず左足を振り抜くと、GKアレクサンデル・ドミンゲスの頭上を襲う鋭い弾道は惜しくも右手で弾かれてしまった。
普通に見れば完璧なコンビネーションから久保の決定的なシュートが惜しくもGKに阻まれた形だが、少し手前にボールが来た分、久保はファーストタッチ前に一歩引いており、その分、エクアドルのディフェンスにシュートコースを限定されていた。
ディテールが結果を分ける
本当にボール1個分の世界かもしれないが、そのわずかなズレがフィニッシュに影響してくるという象徴的なシーンだった。
それでも正確なコントロールから左足で鋭いシュートを枠内に飛ばす久保の技術は見事だが、コンビネーションを含めたプレーの質というのはシビアなものであり、レベルが高くなればなるほど、そうしたディテールが結果を分けるシチュエーションが増えてくる。
もちろん終盤に何度かあったような、本当に決めるべきチャンスを逃さないことも大事だが、そうしたマクロの部分と久保が振り返ったようなミクロの部分の両面から見ていかなけれな、決定力の本質は見えてこないのかもしれない。
(取材・文:河治良幸【ブラジル】)
【了】