奮戦も痛み分け。不完全燃焼で去るブラジル
ミネイロンの大型映像装置は「1-1」のスコアを示していた。終盤を迎えた日本対エクアドルのサバイバルマッチ。日本は途中出場の上田綺世、前田大然が立て続けに決定機を迎えるも決めきれず、ロスタイムが4分経過。あと1分というところで千載一遇の得点機が訪れた。
久保建英とのワンツーから抜け出した中島翔哉がゴール正面からシュート。GKに防がれるも、左にこぼれたボールを久保が素早く拾って左足を一閃。ネットを揺らし、日本の劇的勝利が決まったかと思われた。
だが、主審はオフサイドと判断。VAR判定に持ち込まれた。久保は両手を合わせて祈っていたが、結局はノーゴール。スタンドの観客から大ブーイングが起きたが、現実を受け入れるしかなかった。
結局、両者痛み分けに終わり、日本のコパ・アメリカ2019準々決勝進出の望みはついえた。南米の地での南米勢初勝利という新たな歴史を作るという夢も、完全アウェーのポルトアレグレでホスト国・ブラジルに挑むことも叶わず、若き日本は不完全燃焼のまま、ブラジルの地を早々と去ることになってしまった…。
勝てば8強というシンプルな状況で迎えた24日のグループ最終戦・エクアドル戦。日本の森保一監督は20日のウルグアイ戦の先発から安部裕葵と久保を入れ替えただけで勝負に出た。その采配は当たり、久保は序盤から切れ味鋭いプレーを披露。15分には先制点の起点も作る。
久保のタテパスを受けた中島が相手守備陣の背後を抜け出した岡崎慎司にスルーパス。これをGKがクリアしたボールを背番号10が自ら拾ってゴールに蹴り込んだのだ。岡崎の動きがオフサイドではないかという疑惑があり、VARが採用されたが、得点は認定。先制点という最も重要なテーマを彼らはまず果たした。
「ぶっつけ本番でこれだけのパフォーマンスを出せた」
となれば、今大会2戦6失点の守備陣が踏ん張ればいいはずだった。が、相手のハイプレスに遭った守備陣がバタバタし始める。川島永嗣や冨安健洋のパスを危ない位置でカットされるピンチが続き、嫌なムードが漂う中、CKの流れから失点。早くも同点に追いつかれる。
その後も日本は中島や三好康児らがフィニッシュに行くも、追加点が奪えない。後半はかなりオープンな展開で打ち合いの様相を呈したが、両者ともに精度を欠く。ウルグアイ戦であれほど強度と質の高い戦いを見せた日本も蓄積疲労で足が止まり、躍動感が失われた。その内容を考えると、1-1というスコアもグループリーグ敗退という結果もやむを得ないのかもしれない。
しかしながら、岡崎は「『何か足りない』という見方は全然していない。むしろ若いチームに可能性を感じた」と今回の日本代表を前向きに捉えていた。
「2013年のコンフェデ(レーションズカップ)で(同じベロオリゾンテで)メキシコに(1-2で)負けた時に比べたらもっとチャンスが作れていたし、ボールを持った時の迫力もこっちの方が強かった。日本サッカー界にとって確実に進歩のある試合をした」と33歳のFWは語気を強める。
36歳の守護神・川島も「このチームはフレンドリーマッチもしないでぶっつけ本番で臨んだ中でこれだけのパフォーマンスを出せたのは本当に素晴らしかった。内容を見れば若い選手たちを褒めたい」と決してネガティブになっていなかった。
「今の若手はホントに堂々とやっている」ともこのシリーズ中に何度かコメントしている通り、2週間にわたって若い世代とともに過ごし、プレーを積み重ねてきたことで、川島がポテンシャルの高さを実感したのは確かだろう。
ワールドカップ過去3大会出場の両ベテランが認めた潜在能力をしっかりと発揮できれば、U-22世代はウルグアイ戦のようなインテンシティーの高いゲームを演じられる。その事実は自信にしていいのかもしれない。ただ、逆に言えば、それだけ内容ある好ゲームを見せても勝ちきれないという勝負強さを露呈したのも事実と言っていい。
重く受け止めてほしい敗退の悔しさ
「逆に言えば、自分たちのリズムじゃない時にどれだけ耐えるかっていうのがこのチームの課題なのかなと。グループ3試合を戦ってそれが見えましたね」と岡崎はズバリ言う。
この指摘が3試合7失点という結果に表れている。例えばチリ戦では、最も点を与えてはいけない前半終了間際と後半立ち上がりの時間帯に立て続けに失点。耐え忍ぶべき状況でアッサリとやられている。公式大会のリーグ戦初戦は今後も得失点差を考えて失点を繰り返してはいけなかったのに、三好と安部を投入して攻めに出たスキを突かれ、さらに2点を献上したのも痛恨だった。
あとから振り返ると、ここで踏みとどまり1点を返しておけば、グループBの3位で8強入りしたパラグアイを上回って日本がブラジルとの挑戦権を得ていた。そういう微妙な駆け引きや勝負どころを読む感覚はまだまだ足りない。数々の修羅場をくぐってきた川島や岡崎にはそれがよく見通せるのだろう。
ウルグアイ戦、エクアドル戦にしても、せっかくリードを奪っておきながら、短時間で同点に追いつかれ、逃げ切ることができなかった。世界基準を知っていたら、もっと素早い寄せや球際の激しさを見せて凌げたかもしれない。それは3試合フル出場した杉岡大暉も感じた点だ。
「Jリーグでは(エクアドルの同点のシーンのような)ふんわりしたボールを上げられても失点にならないけど、世界だとクロスを上げられるだけでピンチにつながることが分かった。より距離を詰めて上げさせないようにしないといけないし、細かいところにこだわっていく必要がある」と神妙な面持ちでコメントしていたが、彼らが今回感じたものを糧にしていくしか、成長の道はないのだ。
そのためにも、川島や岡崎といった代表経験豊富な選手たちと若い世代がもっと一緒にプレーして、切磋琢磨していくことが重要だろう。今回のコパ・アメリカはそういう意味で価値あるものだった。
欲を言えば、ブラジル戦まで彼らが活動を継続して、世界トップの実力を目の当たりにできたら、成長スピードはより上がっただろう。そこに到達できなかったことを東京五輪世代には重く受け止めてほしい。
この悔しさをどう先々に生かしていくのか。そして川島や岡崎が今後の森保ジャパンどんな形で絡んでいくのか。そのあたりを注視しつつ、今後の代表の動向をしっかりと見極めていきたいものだ。
(取材・文:元川悦子【ベロオリゾンテ】)
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