均衡する展開に
チリは直近2大会のコパで、10勝3分2敗とわずか1回しか敗戦していない。南米での戦い方を熟知しているのだ。そんなチリが、この日は3-5-2を採用。4-4-2で戦うウルグアイに対して、ボールを握る戦い方を選択したようだ。
チリの3ボランチに対して、ウルグアイは2ボランチと2トップの一角が背後からプレスをかける形でボールを奪おうとしていた。ただチリ代表はCBも中盤の一角のようにふるまうことが多く、中盤が4対3で数的優位の状態だった。結果、目論見通りかチリがボールを保持する展開になる。
ただし多少ボールを持たれようが崩れないのがウルグアイ代表だ。4-4-2でソリッドに守り、危険な場面では必ず体を張って自由を許さない。そしてチャンスとみるや狡猾なルイス・スアレスとカバーニがカウンターからゴールを狙う。
ただチリもウルグアイのその戦い方を熟知しているようで、2トップ対して3バックで数的優位を作り簡単にはシュートを打たせない。
守備意識の高い両チームは共にハードワークすることによって、完全に均衡した展開になっていた。個の打開がないと、試合は動かない雰囲気になっていった。
チリ代表はエースがチャンスを作る
そんな中、チリの選手で奮闘していたのが、マンチェスター・ユナイテッドに所属するアタッカーのアレクシス・サンチェスだ。
そもそもサンチェスは2018年1月にユナイテッドに加入して以降、調子を落としており、昨季もリーグ戦では先発はわずか9試合と、出場機会すらままならない状況だった。加齢と共に、瞬発力は確実に失われている。またボールタッチの感覚もズレ始めており、強いパスだとボールを浮かせたり、前に出し過ぎる場面もしばしばある。しかもコパ直前のリーグ戦終盤にも負傷離脱しており、コンディション面にも不安があった。
ただ蓋を開けてみれば、コパではここ1年で最高のパフォーマンスを披露している。日本戦、エクアドル戦ではそれぞれ1ゴール決めて勝利に貢献。そしてウルグアイ戦でも全盛期を彷彿とさせるドリブル突破を見せた。
38分のシーン、自陣で縦パスを受けると、ウルグアイのベンタンクールやジョルジアン・デ・アラスカエタなど計三名に囲まれていたのだが、ドリブル突破でプレスを回避、カウンターの起点となった。
良かったのはそのプレーだけではない。普段のリーグ戦ではボールロストしそうなプレスが厳しい場面でも、きちんとキープし、カットインしながらチャンスを演出している。
あの、バルセロナやアーセナルで輝いていたサンチェスが帰ってきたのかもしれない。
いや今思い返せばプレミアリーグ第37節、サンチェスが負傷離脱した一戦、ピッチから去るまではワンタッチパスを中心で違いを作り、以前と比べてやや重い体にアジャストするプレースタイルを発見しつつあった。
そう考えれば、全盛期に戻るというよりは、今まさにベテラン選手としてもうひと花咲かせようとしているのかもしれない。
ただしカバーニの個の力で試合が決まる
ただそんなサンチェスの奮闘もむなしく、ウルグアイのDFは堅い。惜しいパスを何度も送るが得点には繋がらない。であればと、サンチェス自身が強引にミドルを狙うシーンもあったが、強いキックに関しては未だに勘所を掴んでいないらしく、ふかしてしまう場面が目立つ。加齢と共に強いキックが蹴れなくなる、というのもよく見る現象だ。同じくマンチェスター・ユナイテッドで言うと、かつてはウェイン・ルーニーなどもその衰えに苦しんでいた。
チリが攻めきれない時間が続くと、ウルグアイも徐々にチリの戦いに慣れ始め、後半には逆に水色のチームがボールを保持する時間が目立ち始める。スアレスやカバーニが虎視眈々とゴールを狙い続ける。
するとその時が訪れた。
82分、ベンタンクールから中央で縦パスを受けたスアレスは、左サイドで待ち構える途中出場のホナタン・ロドリゲスに展開する。スアレスはそのままボックスに飛び込むもののタイミングが合わず攻め手を逸したかと思われたが、ロドリゲスは右足でファーに向かうクロスをカバーニに送る。
32歳のベテランストライカーはボックス内のややゴールから位置にいた上に、クロスにはスピードがないため、ヘッドで狙うにはやや厳しい状況だった。
しかしさすがカバーニというべきか。強引に首を振り、ボールにスピードを与えてニアに流し込む。ここまでシュート0本だった男は試合終了間際に執念とヘディングのセンスでゴールをこじ開けた。
そのまま試合は終了。均衡した試合ゆえの何が起こるかわからないギリギリの戦いは、ウルグアイが制した。オスカル・タバレス監督にとってウルグアイで200試合目の節目の一戦をみごと勝利で飾った。
結果的にはチリは敗戦を喫したが、ただしチリもサンチェスを中心に悪くないパフォーマンスを見せていた。彼らが強いことは0-4で敗れたわれわれ日本人は承知の通りだ。まだまだ借りを返すチャンスはある。両チーム共に決勝トーナメントに進むのだから。
今後の試合も、エースたちが、あるいは、こんどは伏兵たちが、どんな試合を変えるプレーを見せてくれるのか。楽しみでならない。
(文:内藤秀明)
【了】