早すぎる先制点
ともに1分1敗で第3戦を迎えたカタールとアルゼンチン。2位以上での決勝トーナメント進出のために勝利が欲しい両チームは、第3戦でそれぞれメンバー構成に変更を加えた。
招待国カタールは、アシム・マディボ、アブデルカリム・ハッサンが累積警告により出場停止。5-3-2で守備に重心を置きつつ、アジアカップ得点王でMVPのアルモエズ・アリらが得点機を狙った。
コロンビアに完敗を喫し、パラグアイにも引き分けたアルゼンチンは、初戦に先発したセルヒオ・アグエロ、2戦目先発のラウタロ・マルティネスをこの試合で同時起用に踏み切る。この2人の背後にリオネル・メッシを配し、4-3-1-2の布陣で臨んだ。
試合は思わぬ形で動く。ゴールキックを受けたカタール右CBのバッサム・アル・ラウィが出したパスがマルティネスに渡り、左足で蹴り込まれたボールはゴールネットを揺らした。
しかし、早すぎる先制点のせいか、その後は膠着状態が続く。アルゼンチンは過去2戦と同じように、攻撃の形を見出せず、局面での個の力による打開にチャンスメイクを任せていた。
アグエロの個人技術
両チームのシステムを並べると、両チームともにサイドハーフがおらず、中盤を3人でカバーする配置になっている。ここをアルゼンチンのSBや、カタールのWBが高い位置をとることができれば、両チームともにチャンスが生まれていたかもしれない。
しかし、先制したアルゼンチンは左SBのニコラス・タグリアフィコが高い位置取りからチャンスを生み出していたが、右サイドは苦戦。一方のカタールは、WBが高い位置をとっても、中盤や逆サイドからボールが供給されず、効果的な攻撃を作り出すことはできなかった。
カタールは前半アディショナルタイムに、ゴールを狙ったFKがポストを直撃。いくつかの決定機はあったものの、流れの中からアルゼンチンを崩すことはできない。
1-0でスコアが動かないまま迎えた82分。勝負を決めたのはエース・メッシではなく、アグエロだった。
マルティネスに代わって入ったパウロ・ディバラが、ニコラス・オタメンディからのパスを受けると、ついていたマークを剥がしてアグエロにパスを供給。アグエロは少し右寄りにドリブルで前進し、ぐんぐん加速。マークについていた相手DFを抜き切らずに右足で振りぬいたボールは、ゴール左隅におさまった。
この日のアグエロは、攻撃時には2トップの一角としてボックス内での仕事を任されつつ、ボールを保持されたときには、メッシの代わりに中盤までプレスバックし、バイタルエリアを埋めている。献身的にチームの仕事をこなしつつ、得点が必要な場面では個人の能力で得点を決め切ってしまうのはさすがだった。
今大会初、メッシとディバラの共存
ディバラが今大会初出場を果たしたことで、メッシとの共存が見られた。76分から約15分間プレーしたが、懸念されていた問題は起きていないように見えた。ディバラが中央でカタールのCBとMFの間のスペースを突くことで、メッシは右サイドから中央へと侵入することができていた。
さらには、ディバラが中盤の仕事をこなすことで、メッシが“下りなければいけない”場面は減り、よりゴール前での仕事に専念できるようになった。
プレースタイルの似た2人が同時にピッチに立つことで、お互いの長所を消してしまうケースは多い。しかしこの試合に限っては、多すぎるアルゼンチン代表におけるメッシの役割の一部をディバラが担うことで、メッシの負担軽減にもつながっていたのではないかと思う。
初戦のパラグアイ戦では0-2のビハインドから同点に追いついたカタールだったが、続くコロンビア戦、アルゼンチン戦に連敗し、地力の差を見せつけられた格好になった。
結果的に2-0で勝利したアルゼンチンは、グループBを2位で通過。現地時間28日に行われる準々決勝では、グループA2位のベネズエラと対戦する。
今大会でベネズエラは、粘り強い守備でブラジルを相手にスコアレスドローの好ゲームを演じており、いまだエンジンがかからないアルゼンチンにとっては、手ごわい相手になるだろう。
(文・加藤健一)
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