コロンビア戦からの改善はなし
アルゼンチン代表のコパ・アメリカ2019(南米選手権)における初陣は最悪なものとなった。コロンビア代表と対戦した同国は、攻守両面で後手を踏み、終始ペースを握られる。エースのリオネル・メッシも完璧に封じられ、攻撃の形すら見出せなかった。結果、アルゼンチンはロヘル・マルティネス、ドゥバン・サパタにゴールを許し、0-2の完敗を喫することになったのである。
あまりに無残な姿を晒してしまったアルゼンチンは迎えた現地時間19日、グループリーグ突破の望みを繋ぐために、第2戦でパラグアイ代表と激突した。リオネル・スカローニ監督はコロンビア戦からメンバーを4人変更。最前線にはセルヒオ・アグエロではなくラウタロ・マルティネスを起用し、2列目にはロドリゴ・デ・パウル、ロベルト・ペレイラらが名を連ねた。システムもコロンビア戦の4-2-3-1から4-4-2へチェンジしている。
試合は序盤からアルゼンチンがボールを持つ展開となり、パラグアイはほとんどの選手が自陣へと戻り守備のブロックを築き上げる。しかし、グスタボ・ゴメスを中心としたパラグアイのディフェンスは完璧な強度を誇っており、アルゼンチンに隙を一切与えない。メッシにボールが入った瞬間には素早く2、3人がプレスをかけに行き、ドリブルでの突破を見事に阻んだ。
攻撃陣が停滞したアルゼンチンは、セカンドボールの競り合いでもパラグアイに上回られた。高い位置でボールを奪われてカウンターに展開されるといったシーンも目立ってきており、攻撃面だけでなく守備面でも段々と相手の勢いに飲み込まれていく。コロンビア戦からの修正や改善などは、あまり見受けられない立ち上がりだったと言える。
目立った守備の軽さ
中でも際立っていたのは守備の軽さだ。アルゼンチンは攻撃時、両サイドバックが高い位置を取るため、守備時は基本的にニコラス・オタメンディ、ヘルマン・ペッセッジャ、レアンドロ・パレデスの3人で対応することが多いのだが、彼らがボールホルダーに対し効果的なプレスを与えても他の選手の帰陣がかなり遅いため、すぐに広いエリアへ展開されてしまうといったシーンが目立った。守備の意識が低いアルゼンチンはそのまま最終ラインを深い位置まで下げられることで、ショートカウンターにも繋がらない。パラグアイにとってアルゼンチンを攻略するのは決して難しくなかったはずだ。
そんなアルゼンチンの守備の軽さが露呈したのは37分の場面。相手陣内でミゲル・アルミロンがドリブルを開始すると、ミルトン・カスコが簡単に振り切られ、R・ペレイラがカバーに回る。同選手は懸命にアルミロンへ付いていったが、最後はゴールラインを割ると勝手に判断し、プレスを緩めた。結果ボールは生き残り簡単にクロスを上げられたのだが、この時、アルゼンチンの守備陣はほぼ全員がボールウォッチャーになっており、マイナス方向のスペースがかなり広く空いていた。そこへ走り込んだのがリチャル・サンチェス。同選手は冷静にゴールへ流し込み、アルゼンチンは先制点を献上してしまったのである。
最悪の流れに持っていかれてしまったアルゼンチンは、その後も守備の不安定さが露骨となった。相変わらず高い位置でボールを奪うことができず、最終ラインを深くまで下げられるなど苦しんだ。攻撃陣も変わらず苦戦しており、攻守両面で大きく停滞していたのである。
45分にはロングボールを処理しようとしたGKフランコ・アルマーニがペナルティエリアを飛び出しボールをコントロールしようとするもミス。相手に奪われたところをファウルで防ぐ形となったが、レッドカードを提示されてもおかしくはない場面であった。このようにアルゼンチンの守備は、どこかドタバタしていた印象だ。
メッシのPKでなんとかドローも…
前半を0-1で終えたアルゼンチンは後半、試合から消えつつあったR・ペレイラに代えアグエロを投入。メッシを右に回し、L・マルティネスを中央、アグエロを左に配置する4-3-3のようなシステムへと変更したのである。
アグエロが入ったことで攻撃陣に少しスピード感が増したアルゼンチンは、徐々にパラグアイ陣内深い位置まで侵入することができていた。最後のクロスやフィニッシュの質はあまり高くなかったが、前半より勢いが増しているのは明らかだった。
迎えた50分、アルゼンチンに最大のチャンス。アグエロが右サイドで起点となり、L・マルティネスへクロス。背番号22が放ったシュートが相手の手に当たったとしてアルゼンチンにPKが与えられたのである。これを冷静にメッシが沈め、なんとか同点に追いついた。
しかし、である。アルゼンチンは1点を奪ったことで勢いに乗るかと思われたが、それを生かすことができなかった。同点弾からわずか5分後、オタメンディがPA内でデルリス・ゴンサレスを倒しPK献上。これはアルマーニがセーブしたことで勝ち越し弾は許さなかったものの、勢いに乗りつつあった状況を無駄にしてしまったのは間違いない。ここは、アルゼンチンの弱さが浮き彫りとなったシーンだった。
是が非でも勝ち点3が欲しいアルゼンチンは67分にアンヘル・ディ・マリア、86分にマティアス・スアレスがピッチへ入ったが、二人とも流れを変えるには至らず。とくにディ・マリアの状態は気がかりで、コロンビア戦同様、まったく試合に入り切ることができていなかった。
さらにディ・マリアとの交代を命じられたL・マルティネスがベンチに下がる際、スカローニ監督との握手を拒否するなど、チームに流れる雰囲気もどこか不安だ。まだ一丸となりきれていない。そんな印象を抱かざるを得なかった。
結局、アルゼンチンはコロンビア戦の反省を生かすことができず、パラグアイと1-1のドロー。自力での決勝トーナメント進出は、不可能となった。グループリーグ最終戦のカタール戦で敗れると、その時点で敗退が決まることになる。
メッシですら脅威とならず
アルゼンチンはこの試合で計わずか7本しかシュートを放つことができなかった。そのうち枠内に飛んだのはメッシのPKを含む2本のみ。これでは点が入らないのも当たり前だ。
課題を挙げるとキリがないが、コパ・アメリカ2試合を終えわずか1得点。しかもそれはPKによるものと、アルゼンチンの攻撃陣の停滞は多くある課題の中でも際立っていると言えるだろう。
攻撃の中心にいるのは間違いなくメッシで、同選手がドリブルし2、3人を引き付けることも多くある。だが、そうしたことで生まれるスペースに走り込む選手がいないのが、今の状況だ。この日もメッシがドリブルしている時、ほとんどの選手が足下でボールを貰おうと動きを止めており、スペースへ走り込む選手はあまりいなかった。チームとしての姿はなく、個で勝負しているイメージだ。
さらにメッシがパスを出した直後に動き出すといったシーンも多い。動き出しでパスを引き出すのではなく、メッシのパスによって動き出す。アルゼンチンの攻撃陣の今は、まさにこのような感じだ。これでは守る側からすると脅威でないのは明らかだ。
最もアルゼンチンには絶対的なプレーメイカータイプの選手がいない。ジオバニ・ロ・チェルソこそそうした役割を担っているようにも思えるが、まだ決定的な違いを生めるほどの存在ではない。だからこそ、メッシやアグエロといった選手を生かすことができないのである。
ロシアワールドカップ、そしてコパ・アメリカでも何度か見受けられたが、メッシがボランチの位置まで下がってゲームメイクすることもある。だがそれは不本意だ。メッシはゴール前でこそ怖さを発揮できる選手であり、わざわざゴールから離れた位置でプレーさせる意味は、あまりないようにも思える。だが、アルゼンチンではそうした役割も担わなければならない。そのため、アルゼンチンにおけるメッシは、もはや相手の脅威とはあまりならないのだろう。
いよいよ窮地に追い込まれたアルゼンチン。コパ・アメリカのグループリーグで敗退したのは1983年以来ないが、36年ぶりの不名誉な記録更新に残念ながら近づいている。次戦の相手はカタール。侮れない相手であることは明らかだが、果たしてアルゼンチンに光は射すのだろうか。
(文:小澤祐作)
【了】