取り消されたゴール
ブラジルは、負傷によりボリビア戦を欠場したアルトゥールがこの試合で復帰。それ以外は同じメンバーでベネズエラ戦に臨んだ。
ブラジルは38分に、右サイドでボールを受けたダニエウ・アウベスが速いクロスを送ると、ロベルト・フィルミーノがこれを収めてシュートを放つ。これがゴールネットを揺らしたものの、直前にフィルミーノがミケル・ビジャヌエバを倒したとして、ファールが与えられ、ノーゴールとなった。
前半を無得点で折り返したブラジルは後半、リシャルリソンに代えてガブリエリル・ジェズスを投入。ジェズスが3トップの左に入り、前半は左にいたダビド・ネレスが右に移動。さらに、アルトゥールをカゼミロと並び4-2-3-1の布陣に変更。さらに57分、カゼミロに代えてフェルナンジーニョを投入した。
すると、60分、自陣からボールをつなぎ、左サイドでボールを受けたジェズスが、カットインからシュート。これはGKが弾いたが、そのこぼれ球をフィルミーノが拾い、すぐさまゴール前に入れると、ゴール前に飛び込んだジェズスが、右足で押し込んだ。
しかし、これもノーゴール。ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)による検証の結果、ジェズスのはじめのシュートシーンにおけるフィルミーノの位置がオフサイドという判定となった。
プランを貫いたベネズエラ
そして、87分、フィリッペ・コウチーニョとのワンツーから左サイドをドリブルで持ち上がったエベルトンがマイナスのクロスで折り返すと、ゴール前にコウチーニョが飛び込んで、ボールをゴールに押し込んだ。
しかし、これもノーゴール。コウチーニョがシュートを放った瞬間、フィルミーノより前に立っていたベネズエラの選手がジョルダン・オソリオだけだったため、VARの検証により、フィルミーノのポジションがオフサイドと判定された。
2回もVARによってゴールが取り消される格好になったブラジルだが、それを抜きにしても、この日の攻撃は停滞していた。思い返すと、同様に前半をスコアレスで折り返したボリビア戦と、似た状況だったと言える。
ベネズエラは4-5-1で中盤を厚くして、守備を固める。両SBは中に絞り、ブラジルの両WGを監視。ブラジルは攻撃の起点となるアルトゥールやコウチーニョ、前線から降りてくるフィルミーノも、ベネズエラの3人のMFにスペースを消された。
しかし、ボリビア戦と異なるのは、ベネズエラが90分を通してゲームプランを貫き通したことだろう。ジョルダン・オソリオ、ビジャヌエバの両CBはクロスを黙々と跳ね返し続け、中盤の5人の選手たちは、懸命にプレスバックしてスペースを埋め、1トップのロンドンは数少ないカウンターのチャンスを狙って、身体を張って時間を作った。これが、ベネズエラに貴重な勝ち点1をもたらすことになった。
カギは「フィルミーノの生かし方」
中央のスペースを消されたブラジルは、サイドからのクロスに頼ることになる。データベースサイト『Whoscored.com』によると、この試合でダニエウ・アウベスは実に14本ものクロスを放ったものの、そのほとんどが高いボール。ベネズエラのオソリオ、ビジャヌエバの高い壁によって跳ね返され続けた。
ブラジルのCFを務めるフィルミーノは、典型的なCFとは一線を画すタイプのフォワードだ。味方にスペースを作る動きが得意で、所属するリバプールでも、得点王に輝いたモハメド・サラーとサディオ・マネをおぜん立てしてきた。
リバプールでは、左にマネ、右にサラーを置くことが多い。フィルミーノが中盤とDFラインのスペースをうまく使うことで、両者がゴール前で仕事がしやすくなるというロジックだ。
60分のシーンは、右利きのジェズスが左サイドからカットインしてシュートに持ち込んだことで、ゴールネットを揺らした。さらに、87分のシーンでは左サイドで仕掛けたのは右利きのエベルトン。マッチアップしたロナルド・エルナンデスはカットインを警戒したポジションにいたため、縦に切り込んだエベルトンに簡単に振り切られた。
しかし、ブラジルは左WGに左利きのネレス、右WGに右利きのリシャルリソンを先発で起用している。縦の突破には特長を出せるものの、中へ切り込む動きはあまりみられなかったことで、なかなかチャンスを生むことができなかった。
ストライカータイプのジェズスがCFを務めるのであれば、また変わった展開も予想されただろう。しかし、この日のブラジル代表は、CFを務めたフィルミーノと、両WGのミスマッチが、攻撃の停滞を招いた原因のひとつになったと言えるだろう。
(文・加藤健一)
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