思わぬ展開で先制点が決まる
パラグアイ対カタールの一戦が行われたのは、エスタディオ・ド・マラカナン。
1950年のブラジルワールドカップ決勝でウルグアイに敗れた「マラカナンの悲劇」、5年前のワールドカップ決勝、ブラジルがドイツに勝利し、「マラカナンの歓喜」とも呼ばれた2016年のリオデジャネイロオリンピック決勝など、ブラジル開催の主要大会では大事な試合が行われてきたスタジアムである。
パラグアイは優勝候補ではないものの、近年は2011年大会では準優勝、15年はベスト4と、上位に食い込む力は持っている。
一方のカタールは、国際主要大会での実績はこれまでほとんどなかったが、今年のアジアカップでは、韓国、アラブ首長国連邦(UAE)、日本を次々と撃破し初優勝。招待国として初出場となるだけに、パラグアイにとっては少し不気味な存在だ。
開始直後から試合は動いた。1分、カタールは左サイドのスローインからバックパスでGKに戻すと、GKサード・アル・シーブがつなごうとしたボールが相手に渡ってしまう。パラグアイは、オスカル・カルドソからセシリオ・ドミンゲスへとつなぐが、惜しくもゴールとはならず。
しかし、直後のプレーで得たCKをニアでブルーノ・バルデスが頭で合わせる。すると、そのボールがカタールのペドロ・コレイアのあげた手に直撃し、PKの判定。パラグアイはカルドソが左足で真ん中へ豪快に決め、パラグアイが3分に先制した。
試合は決まったかのように見えた
先制したパラグアイは、CFとトップ下が相手の両CBにプレスにいく形で、ビルドアップを封じていた。しかし、カタールもアシム・マディボがボランチから最終ラインに降りて数的有利を作り、徐々にカタールは敵陣へとボールを運べるようになっていった。
16分や前半アディショナルタイムなど、カタールは何度か決定機を作り出した。しかし、前半のポゼッション率は63.5%でボールを持つ時間が多かったものの、シュートはパラグアイの8本に対して6本。先制したパラグアイは相手にボールを持たせる戦い方は、前半戦だけを見ると奏功していたように見えた。
56分、パラグアイが追加点を決める。アルミロンのパスを受けたゴンザレスがゴール正面約30mの位置から、右足アウト気味のミドルシュートを決めた。
このゴールによって、試合は決まったかに見えた。しかし、カタールの試合運びは、知らず知らずのうちにパラグアイを苦しめていった。
パラグアイを苦しめた“リオデジャネイロ”
試合が行われたリオデジャネイロのこの日の最高気温は28度。試合は4時キックオフで、湿度は80%を超えていたようだ。蒸し暑い気候は後半の展開に左右したと言っても過言ではないだろう。
先制に成功したパラグアイは、ボールを持たずに守備から試合に入った結果、徐々に消耗していった。それは、ピッチに選手が倒れる回数を見てみても歴然だった。
カタールの1点目については、パラグアイの足が完全に止まっていた。68分、左CBを務めるタレク・サルマンが左SBのアブデルカリム・ハッサンとのワンツーで持ち上がると、PA角付近にいたアルモエズ・アリにパス。エースは豪快に右足を振りぬくと、ボールはきれいな弧を描いて、ゴールに吸い込まれた。
一見スーパーゴールに見えるこの得点には、パラグアイのミスが隠れている。アリがボールを受けた時点で、相手は3人のDFと下がってスペースを埋めているボランチと正対している。人数的にはパラグアイが有利である。しかし、足が止まってアリへの寄せが甘くなった結果、ミドルシュートを許してしまった。
同点ゴールも必然だった。カタールは77分に右サイドで3人が細かくつなぐ。中央で受けたブデルアジズ・ハティムがスルーパスにブーアッラーム・フーヒーがこれに反応する。右足シュートはGKの足にあたったが、ボールはゴールへと吸い込まれた。
勝ち点獲得につながった要因
同点に追いついたカタールは、ハティムに代えてカリム・ブディアフを入れる。ボランチのフーヒーを最終ラインの真ん中に入れ、11番アフィフと19番アリを前線に残し、5-3-2でパラグアイの反撃に備えた。
しかし、2点のリードを追いつかれたパラグアイに反撃の力は残っていなかった。その後は、カタールのカウンターから何度かチャンスがあったものの、試合は2-2のまま終了した。
ポゼッション中心のサッカーを展開するカタールだが、開始直後は、ビルドアップに苦しむ場面も少なくなかった。言ってしまえば、先制を許すきっかけとなった、開始1分のGKのミスもそうである。
しかしカタールは、パラグアイのSBの裏へのロングボールを何度も使い、相手守備の形を徐々に崩していく。さらに、ボランチのアシム・マディボがCBの間に降りるなど、自在にポジションを変えることで、フリーの状態で敵陣へと進むことが可能となっていった。
カタールの相手を見ながらサッカーをする柔軟な戦い方が、初出場ながら、初戦で勝ち点1を獲得する要因になったと言えるだろう。
(文・加藤健一)
【了】