南米の猛者と激突へ。鍵を握る4人
森保一監督が率いる日本代表は永井謙佑の2得点によりエルサルバドルに2-0で勝利した。この試合は9月からスタートするアジア予選前の最後の親善試合であったと同時に、コパ・アメリカ参戦前のラストマッチでもあった。
先のトリニダード・トバゴ戦と合わせて森保監督が3バックをA代表で初めて採用したことが注目されたが、おそらくU-22世代が中心となるコパ・アメリカも[3-4-2-1]をベースに臨むことが想定される。ただ、コパとエルサルバドル戦の関連性について森保監督は次のように語っていた。
「キリンチャレンジカップはキリンチャレンジカップで、しっかりこの2試合を次につなげるものにしたいと思っています。コパ・アメリカに出場するためにここで慣らすということは戦術的には考えていない。コンディション的にどうするかというのは、これまでの期間の練習の強弱や、個々で休みを取ってもらったりということはしてきている」
実際にコパ・アメリカと重なる8人(もともと9人だったが植田直通がクラブの事情でコパのみの参戦となった)のメンバーのうちエルサルバドル戦に出場したのは冨安健洋、柴崎岳、中島翔哉、久保建英の4人。
経験豊富なベテランとしてコパ・アメリカにも招集された川島永嗣と岡崎慎司はベンチ外で、A代表の合宿に帯同しながらコパに向けてコンディションを上げることが彼らを両方に招集していた目的だったことは状況的に分かる。また久保とともに10代でA代表に入った大迫敬介、初選出の中山雄太も出場は無かった。
そして試合後には「インテンシティは初戦から相当に高くなると思いますので、戦う覚悟をもってコパ・アメリカのチリ戦に臨む」と語った森保監督。
12日に日本を離れ、長い移動をへて13日からブラジル現地での合宿をスタートさせるが、17日のチリ戦までは4日間の練習しかない。疲労の回復や時差調整も重要だが、何よりチームとして合わせる時間がほとんどない状態で、南米の猛者たちに挑んでいかなければならないのだ。
その意味でキリンチャレンジカップから森保監督のもとで活動している8人の存在は非常に重要になる。その視点で2試合に出た4人のプレーを総括し、コパ・アメリカを展望したい。
冨安健洋
間違いなくコパ・アメリカでのディフェンスの中心になる存在で、A代表では初めて3バックをテストした2試合でも存在感は際立っていた。相手との関係もあるかもしれないが、とにかく1対1では負け知らずで、自分の担当エリアに加えてウィングバックの裏、中央のカバーリングも2試合を通して見事だった。コパ・アメリカではメンバー構成的に昌子源がやっていた3バックの中央に入る可能性が高い。
「攻撃の時は(3バックの)脇の方が前に持ち出せるというかスペースがあるので、より攻撃に関わっていけると思いますけど、守備の時は真ん中をやるとしたら(昌子)源くんが言ってたように横全部守るぐらいの意識でやらないといけないと僕も思うし、真ん中をやる選手はかなり広く守れないといけないと思います」
3バックの右を担いながら中央の昌子ともコミュニケーションを取ってコントロールしていたこともあり、昨年のトゥーロン国際での経験からさらにアップデートして植田直通や板倉滉、立田悠悟と組むディフェンスラインを統率するはずだ。
ただ、チリ代表にはアレクシス・サンチェスを筆頭にトリニダード・トバゴやエルサルバドルと比較にならない気鋭のアタッカーが揃う。ワールドクラスのスアレスやカバーニを擁するウルグアイは言うまでもなく、エクアドルもエネル・バレンシアという身体能力が抜群の点取り屋がいる。
冨安をもってしてもデュエルで完勝というわけにはいかないことが予想される中で、どう粘り強く対応して行くか注目される。
柴崎岳
中盤から攻守を司るチームの大黒柱としてキリンチャレンジ杯から引き続きキャプテンを務める可能性が高い。トリニダード・トバゴ戦は3バックという新たなトライもあり、中盤からのバランスワークに苦しむ時間帯が見られた。
しかし、後半には3バック、ウィングバックとの距離感もつかめた様子で、小林祐希が投入されてからは柴崎がバランスを取り、小林には積極的に前へ出て攻撃に絡むことを促していた。
コパ・アメリカでは松本泰志や渡辺皓太、あるいは今回のキリンチャレンジにも招集されていた中山雄太とのボランチ・コンビになるが、松本であれば前でボールを奪い、縦パスを狙う特徴を発揮しやすいように支えるはず。渡辺皓太ならさらに高い位置に出て絡めるように、中山なら左足の展開力を生かしながら時に柴崎が前に出るシーンが増えるかもしれない。
中盤の強度は相手のレベルだけでなくコンディションからも明らかに高くなるので、思うように繋げない状況やセカンドボールを拾えない状況でどう立ち回って行くか注目される。
コパに関しては「おいおい話したい」と語るに止めたが、若手に対する影響については「若い選手、新しく入ってきますしね。今回のメンバーもいますけど彼らも徐々に馴染んでくると思いますし、言葉もそうですけど、一番は自分で何を感じるかだと思うので、彼らにはそれができると思いますし、そういったいろんな場に導いていくことが彼らにとって大事かなと思います」と語る。
川島や岡崎といったベテランの支えもあるが、ゲームメイクはもちろん試合のゲームコントロール、そしてオンオフのリーダーシップも求められる。
中島翔哉
間違いなく攻撃の中心になる選手で2シャドーの左から積極的に仕掛けてゴールを奪いに行きたい。ただ、トリニダード・トバゴ戦は全体の機能が上がらない状況で個人の仕掛けからのフィニッシュにこだわったところがある。後半22分から出たエルサルバドル戦は久保建英と互いにスペースを生かしあいながら鋭い突破も試みていた。
エルサルバドル戦については「個人的には久々に一緒にやりましたし、久々にやる選手が結構多かった」と振り返る中島。コパ・アメリカでも攻撃のコンビを組みそうな久保とは「攻撃のところはどんどん仕掛けてほしいと。守備のところではみんなと連動して」と語った。
チリやウルグアイのディフェンスに対して1対1で勝ち切るのはなかなか難しく、久保をはじめ三好康児、安部裕葵らとのコンビネーションは求められるが、中島の局面での打開力は間違いなく必要になってくる。
久保建英
エルサルバドル戦で史上2番目に若い18歳と5日でのA代表デビュー。プレーもゴールやアシストこそ無かったものの、仕掛けや起点のパス、飛び出し、高い位置でのボール奪取と短い時間で多くの局面に絡んでインパクトを与えた。
「楽しんでやってくれという前向きな言葉をかけてもらったので、それもけっこう入る助けになりました」と振り返った久保。その自由度の高いプレーはベンチから観ていた長友佑都をして「ドラえもんみたい。なんでもアイテムとか引き出しが多すぎて、何を出すか分からない」と言わしめる。しかも、周囲を生かすプレーも心得ている。
「これからコパに行く選手がいるなかで、その選手たちも含めてずっとやっているので、自分の特徴は伝えているつもりですし、逆にこれからくる選手もずっと一緒にやってきているので、そういう意味では自分とか中山選手、冨安選手だったり、両方経験している選手の役目も大事になってくる」
集合から限られた準備期間でいろいろなことをすり合わせることは難しい。それを想定してこうした発言をできることも久保の持つスペシャリティだ。実際にU-19やU-22で一緒にプレーした選手がほとんどではあるが、キリンチャレンジカップでデビューできただけでなく、中島とプレーできたことは大きい。
ただし、南米の強豪国は立ち上がりからキーマンになるアタッカーに厳しいタックルを食らわせてくるなど、純粋に強度が強いだけでなく狡猾なので、“プチ・ブル”とも言われるチリのガリー・メデルしかり、ファウルすれすれの対人守備をしてくるホセ・マリア・ヒメネスしかり、そうした猛者を相手にしてどこまで普段通りを出せるか、普段通りを出せない時にどう振る舞うかで当面のA代表での可能性も見えてくる。
(取材・文:河治良幸)
【了】