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96年フランス対ポルトガル。ジダンが引き起こした一瞬の静寂。時代の主役となった1プレーとは?【私が見た平成の名勝負(3)】

シリーズ:私が見た平成の名勝負 text by 西部謙司 photo by Getty Images

ポルトガルの閃光とフランスの太陽

 ジャケ監督下、10勝7分0敗で迎えたポルトガルには日の出の勢いにあった。マヌエル・ルイコスタ、ルイス・フィーゴ、フェルナンド・コウトらの黄金世代が台頭している。舞台は“あの”パルク・デ・プランス。

 先制したのはアウェイのポルトガルだった(23分)。FKをルイコスタが放り投げるように蹴り入れ、コウトがヘディングで叩き込む。ライオンのようなヘアスタイルのコウトはブンッと空中で一回りしてみせた。フランスは1分後にすかさず同点にしているが、31分にはルイコスタがゴール。ディフェンスラインの裏へ飛び出すと、身を翻して右足アウトサイドでGKベルナール・ラマの出際をチップ、鮮やかな手際だった。

 この試合の最初の光がルイコスタで、才気溢れるポルトガル人の中でも目に痛いほどの、火花のように才能がほとばしっていた。世界は、こいつらを中心に回っていくかもしれない。そう思わせるものがあった。

 ルイコスタの閃光の次には、ジョルカエフの大きな光がフィールドを覆う。2度のビハイドを自らのゴールで振り出しに戻した。ポルトガルの才能に圧倒されそうになるたびに、ジョルカエフが現れてフランスを救い出す。父親と二代のフランス代表選手。カントナやパパンの影に隠れていたジョルカエフは、フランスの太陽になっていた。高速のドリブルと正確無比なシュート。誰がこの夜の王なのか、時間とともに明らかになっていった。

 その間、ジダンはときどき鈍く光っていた。ジョルカエフの得点を生む2つのダイレクトパスには、ルイコスタの華もジョルカエフの力強さもなかったが、無造作に返すワンタッチには他の選手にない質感はあった。ただ、それ以上ではなく何だか底知れないものを感じさせるにとどまっていた。77分にとんでもないものが出てきて、はじめてこの夜の、ここからの時代の、主役が誰なのかを知ることになる。

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