カズの覚醒
一時はリードを2点に広げるゴールを61分に叩き込み、スタンドを熱狂させたのはFW三浦知良(ヴェルディ川崎)。ユベントスのセンターバックで、ブラジル代表としてワールドカップの舞台でも活躍したジュリオ・セザールを抜き去って決めたゴールを、カズは後にこう振り返っている。
「僕がブラジルでプレーしていたときから、セザールは雲の上の存在だった。自信になったよね」
鳴り物入りでブラジルから帰国したのが平成2年の夏。ヴェルディの前身・読売クラブの一員として日本リーグを戦いながら、カズは評判倒れという批判を浴びてきた。2年間で決めたゴールは9。点取り屋を求めていた日本サッカー界のニーズを、とてもじゃないが満たさない数字だった。
「思うようにいかなかった部分もあった。あのころはフォワードに対する考え方というか、サッカーそのものが変わっていった。かつてのウイングに求められた仕事、たとえばセンタリングがいまではサイドバックに求められている。僕自身はウイングとしてアシストをマークするだけで満足しちゃって、ゴールに対してはそれほど貪欲じゃなかったからね」
こんな言葉を残したのは、京都パープルサンガからヴィッセル神戸に移った平成13年だった。主流システムがブラジルの[4-3-3]から日本では[4-4-2]になり、ウイングが置かれなくなった状況を受けて、最前線で居場所を築くためのプレースタイル改革に平成4年ごろから取り組んだ。
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