ベシクタシュでの経験が財産に
それでもカスムパシャ戦の80分、ピッチを退いて、ベシクタシュを後にする香川に、拍手が送られたのだ。「ありがとう、お疲れ様…」。労をねぎらうかのような音が、すっかり夜も更けたボーダフォン・パークに鳴り響いた。
香川がベシクタシュで示したパフォーマンスと残した数字で、今夏、どこからどれだけのオファーがあるかは分からない。ネガティブな見方をすれば、シェノル・ギュネシュ監督の信頼を掴みきれず、先発に定着し切れなかったが、ポジティブな見方をすれば、548分間プレーして4ゴール2アシストの数字を残したということは、およそ90分に1回、つまり1試合に1回は決定的な仕事をしているということになる。
将来のことは神のみぞ知るだが、いずれにせよ、ドルトムントで出場機会を失った香川が決断を下し、ベシクタシュに飛び込んだことは、決して無駄ではなかった。真意はともかく、カスムパシャ戦の80分に送られた拍手は、その証左となるのではないか。
イスタンブールで過ごした日々が、サッカー選手としてだけでなく、1人の人間として、得難く貴重な人生の財産となったことを――。
(取材・文:本田千尋【トルコ】)
【了】