フロントと現場の良好な関係
2019シーズンに向けてのチーム編成も、その観点から進められた。ものすごくざっくりとして語弊もあるであろうランク付けだが、J1クラスのプレーヤーを「上」、J2クラスを「中」、J3クラスを「下」としたときに、西山強化部長が集めたのは「中の上」の戦力だ。
「ここ数年、J2で上位ランクのプレーをしてきた選手たち」ということで、コンディション不良による稼働率低下の心配は少ない。J1で力を発揮できるかどうかは未知数だが、FC岐阜からヴィッセル神戸へと引き抜かれた古橋亨梧やレノファ山口からガンバ大阪へと移籍した小野瀬康介の例もあり、近年のJ2上位ランクのプレーヤーはJ1でも十分に通用すると考えられる。
そうやって集められた選手たちは開幕当初、一部で“J2オールスターズ”と呼ばれ、話題になった。
その中で、第6節終了時点で6得点を挙げリーグ得点ランキング首位に立つ藤本憲明が、大いに注目を浴びている。近畿大学卒業後にJFL・佐川印刷SCでアマチュアとしてスタートし、廃部にともなって2016年、J3昇格した鹿児島ユナイテッドFCに移籍すると、そこから2年連続でJ3得点王に輝き、2018年にJ2のトリニータへと“個人昇格”を繰り返してのし上がってきたストライカーだ。
その決定力とバリエーション豊富なゴールパターンに表れる実力は疑いようのないものだが、彼にしてもチーム戦術にフィットするまでには相応の時間と努力を要した。フィニッシャーとして結果を出しているため突出した存在となっているが、彼がボールに触れる前の段階で、組織によって作られた状況があるからこその結果でもある。
西山強化部長は言う。
「もしかしたら、こういうサッカーをするのは苦肉の策でもあると言えるかもしれない。カタさんがそういう組織的なサッカーを目指しているということもあるけど、本当はカタさんだってすごいストライカーがいたほうがいいに決まってる。でもそれはクラブの力として、叶えてあげられない。そうなったときに、こういう工夫をするしかないということ。だからこのサッカーは、もしかしたら予算ありきの工夫から生まれたものだと言えなくもないのです」
だがむしろこれは、スタイルありきなのか、予算ありきなのかの境界線が曖昧なくらいに、フロントと現場の関係がフラットで上手くいっているということだとも言える。
フロントと現場、どちらかの希望だけで選手を獲得したことは一度もない。片野坂監督が西山強化部長の考えから大きく外れるリクエストをしたこともないのだそうだ。
(文:ひぐらしひなつ)
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