フロントが共有したつねに立ち返る場所
前年に築いたものを継続しながら積み上げ続けることで、効率的にチームの力を向上させることができる。その軸をブレさせないための秘訣は「つねに立ち返る場所を確かめ合うこと」だと西山強化部長は言う。
「負けたときは僕は現場には何も言わない。ただ、いい試合をして勝ったときに『これこそ目指していたものですよね』と監督たちと話す。僕の仕事は現場をオーガナイズして気持ちよくやってもらい、より力を出してもらうこと。悪いときにはいいときのことを鮮明に思い出してもらいたい。いいものを明確化して、悪いときには修正するのではなく、そこに戻りましょう、と確認します」
そうやって現場とフロントが共通認識の下で育ててきたのが、「前線にボールを入れるだけでなく、関わり、全員が連動するサッカー」だ。これが「J1でも戦えるチーム」へと繋がっていく。2019年J1での試合で言えば、第4節のマリノス戦がそれに相当するという。
J1では「予算規模で言えばダントツで最下位」(西山強化部長)のトリニータは、他のビッグクラブとは異なり、高額年俸のプレーヤーを抱えることは難しい。決定力のあるストライカーを獲得することが好成績への最短距離なのかもしれないが、一般的な認識としては、ストライカーが最も高額だ。
そういう意味でも片野坂監督の組織的なサッカーは理にかなっていると言える。独力で得点できるストライカーが不在でも、グループで局面を打開していくスタイルなら、ビッグクラブに太刀打ちできる可能性が出てくる。そしてそういうスタイルは、プレーヤーにとっても往々にして魅力的なものだ。
「この業界では点を取る選手が評価されがちですが、僕はその試合で何が効いているのかを見るようにしています。ラストパスのひとつ前のパスを効いていると評価する人もいれば、点を取らなきゃ評価しないという人もいるかもしれないけど、あの選手のカバーリングがすごく効いていたとか、彼があそこにいたから相手はパスを出せなかったよねとか、そういう評価もしてあげなきゃいけない」
(文:ひぐらしひなつ)
【了】