「少しずつ上達して、チームを引っ張っていける選手に」
脇坂は神奈川県横浜市生まれで、高校から川崎フロンターレU-18に所属していた。高卒でのトップチーム昇格は果たせなかったものの、進学した阪南大学で着実に成長し、昨季から4年越しでフロンターレに戻ってきた。大学時代は流通経済大学出身の守田とも全日本選抜で共闘した仲だ。
「アカデミーの時からたまに等々力でプレーさせてもらう機会があって、そういうアカデミーの試合にもサポーターの方がたくさん来てくださったり。でもいつか満員の中でやりたいなとずっと思っていたので、そういった試合にスタメンで出られて、なおかつ勝てて、とりあえずよかったかなと思います」
2万5789人以上が詰めかけた満員の等々力陸上競技場でリーグ戦初先発、そして勝利に安堵の表情を浮かべる。だが、そこに満足している様子は一切ない。「1つひとつやっていくことが大事だし、いきなり飛び抜けてうまくなるとか、そういったことはない。1日1日が大事だと思いますし、まだまだ試合も続くので、その試合に向けて1つひとつやっていきたいなと思います」と勝って兜の緒を締めた。
同期の守田は昨年加入してすぐにレギュラーポジションを射止め、日本代表デビューも果たした。同じ下部組織出身でも、自分より若い田中が昨年からすでに多くのチャンスをもらっている。仙台戦をDAZNで解説していた柱谷幸一氏も、20歳の若武者の獅子奮迅の活躍に「代表に絡んでくるのではないか」と目を細めていた。そんな状況で燃えないはずがない。
「生え抜きだし、アカデミー出身だし、チームを引っ張っていかなきゃいけない存在だなと感じます。でもまだまだやることはたくさんあるし、1つひとつ、少しずつ上達して、チームを引っ張っていけるような選手になりたいと思います」
フロンターレの下部組織からは近年、優秀な若手が多く輩出されている。板倉滉は仙台への期限付き移籍を経てマンチェスター・シティと契約、その後オランダ1部のフローニンゲンへ移った。三好康児もレンタル先の北海道コンサドーレ札幌や横浜F・マリノスで、Jリーグを代表するアタッカーになりつつある。田中も含め、彼らは脇坂にとっては年下になる。
だからこそ追いつけ追い越せの精神で、成長速度をもっともっと上げていかなければならない。フロンターレの未来を担う生え抜きとしての使命を果たすには、まず2連覇中の王者でコンスタントに出場を重ねるための足場を築く必要がある。そのきっかけは、彼の見据える先にはっきりと見えているはずだ。
(取材・文:舩木渉)
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