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Jリーグ 6年前

平成から令和へ、マリノス対鹿島は時代の転換点。27年目の激闘、それぞれが思い描く「家」の形

text by 舩木渉 photo by Getty Images

「強固な『家』を作る」ということ

アンジェ・ポステコグルー
ポステコグルー監督は「家づくり」の最中。攻撃的なスタイルに徹底してこだわる【写真:Getty Images】

 体力を消耗したギリギリの状態で難しい判断を迫られ、複数の相手に囲まれれば寄せてきた選手が誰かを間違えてしまっても不思議ではない。「取られたのは僕なので、僕が悪いんですけど」と安部は悔やむが、「攻撃のバランスもしっかりしておけば、ああやってワンくん(犬飼)がボールを持った時もそれぞれのポジションに立っていると思う」とビルドアップの計画性や約束事の拙さも感じているようだった。

 まさに伊藤の指摘していた部分、ポジショニングや自信、ビルドアップの問題点があらわになった象徴的な失点だった。「自分たちがやっていて楽なことだけじゃなくて、しんどいけど相手の嫌なことを、嫌なことをとやっていかなければいけないとなかなか厳しい。裏に抜ける人が少ないし、みんな足元で受けたがってしまったり」と、そして「1人ひとりの位置取りだったりとか、このチーム(鹿島)は別に技術が低いわけじゃないので、それさえやれば全然簡単にボールは回るんですけど、それはやっぱりマリノスの方がうまかったですね。立ち位置の問題ですね」とも語る。

 マリノスも鹿島も知るベテランストライカーは、「ここはちょっとね、ターニングポイントじゃないけど、いい方にも悪い方にもいく今危ない時期だから。ここは本当にみんなで、今こそチーム一体に、まとまってやっていかないと一気にバーンってバラバラになる可能性があるので、首の皮一枚でどっちに転ぶかという。それを自分たちでいい方向に持っていかなければいけないし、できるのは自分たちだけなんだから、やるしかないですね」と言葉に力を込めた。直近の公式戦4試合で3敗、唯一の勝利だったベガルタ仙台戦も薄氷と、まさにチームとしての正念場だ。

 一方のマリノスは彼らのスタイルに自信を深める勝利を収めた。天野は「ブロックを敷かれていますけど、そんなに崩せないなという感じではなかった。いつか割れるんだろうなと思いながら、うまく動かしながらやれていたので、そういったのは本当にみんな今日で手応えを掴んだと思います」と引き締まった表情で語る。

 ポステコグルー監督も、これまで通り戦い方を変えず、ブレない姿勢こそが重要だと再認識しているかもしれない。鹿島戦を終えての記者会見のコメントからもそれはハッキリとうかがえた。

「シュートやドリブルは『家具』だと思わなければならない。それらは最後にくるものだ。現時点でやらなければいけないのは強固な『家』を作ること。マリノスは今取り組んでいるプレースタイルで強い『家』、堅い基盤を築いていこうとしている。自信を持って決断を下せば、自分たちのその決断にさらなる自信を感じることができる。先週末の札幌戦は良くなかったし、ミスも多かった。我々はまだ『家』を建てている途中なんだ。『家具』はまだこれからだよ」

 時代は平成から令和へと移り変わる。そのタイミングでの両チームの戦いぶりは対照的だった。鹿島は27年間で20個のタイトルを獲得し、すでに「らしさ」の備わった「家」ができているが、それはある意味「建て替え」の時期に来ているのかもしれない。マリノスは指揮官が言うように、新しく強い「家」を建てている最中だ。

 Jリーグの「オリジナル10」として共に時を刻んできたマリノスと鹿島は、刃を交えながら新しい時代にどんな歴史を築いていくだろうか。今から次の対戦が楽しみで仕方ない。

(取材・文:舩木渉)

【了】

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