「バッチリ」だった鹿島の前半
Jリーグ開幕から途切れることなく続いている唯一の対戦カードがある。「オリジナル10」と呼ばれるクラブのうち、一度も昇降格を経験していない横浜F・マリノスと鹿島アントラーズが、平成から令和への変わり目で相見えた。
4月28日に行われた伝統の一戦は、互いの現在のチームスタイルを色濃く反映した内容となった。序盤の11分に鹿島がマリノスのビルドアップのミスを突いてカウンターを仕掛け、最後は左を駆け上がったサイドバックの安西幸輝が先制点を奪う。
その後は自陣に強固な守備ブロックを敷く鹿島を前に、圧倒的なボールポゼッションで迫るマリノスはフィニッシュの局面を作り出せず攻めあぐねた。ペナルティエリア付近まで侵入しながらシュートを打てない。
この展開に今季マリノスから鹿島へ移籍したFW伊藤翔は「前半は結構バッチリで、『これこれ!』と思っていた」という。だが、後半に決壊してしまった。「同点にされた後も、もう1点取るためにパワーをかけなければいけないけど、そこまでのパワーもそんなに出し切れていないという感じの印象はすごくありましたね」と伊藤は語る。マリノスは終盤まで攻め続け、2つのゴールを奪って2-1の逆転勝ちを収めた。
なぜ前半に完璧なまでの守りを披露しながら、最後まで耐えきれなかったのか。他の選手の一言がそれを物語っていた。鹿島の10番を背負う安部裕葵に話を聞こうと歩み寄ると、第一声で「守備ばっかりで疲れました」と漏らした。
それに「相当押し込まれることも、ある程度想定していたのでは?」と問いかけると、「いや、あそこまで追いかけさせられるとは思わなかったですけどね…」と苦虫を噛み潰した表情で語って、足を止めた。
実際のところ、データを眺めると鹿島よりもマリノスの方が「走っている」ことがわかる。Jリーグが公式サイトで公開しているデータを参照すると、鹿島のチーム総走行距離(交代選手含む)が111.357kmだったのに対し、マリノスは116.416kmを記録しているのだ。
ではなぜ、試合を終えた鹿島の選手たちはマリノスの選手たちに比べて疲れ切った様子だったのか。それは端的に、「追いかけさせられる」時間が長かったからだ。ボール支配率はマリノスの69%に対し、鹿島は31%。自陣に押し込まれ続け、パスが出るたびにポジションを修正して動かなければならない。
守備はどうしても相手の動きありきになるため、「受け身」になってしまう。受動的に動かされるのは、自分たちがやりたいように動くよりもはるかにエネルギーを消耗する。その影響がモロにチーム全体のプレーに影響を及ぼしてしまったのだ。