マケドニア人兄弟の「完璧」な関係
おそらく中継映像には映っていないが、コーナーキックからの一連の流れが終わってプレーが流れている最中、ダヴィッドとドリアンはピッチの脇で熱い抱擁を交わし、スタンドからは温かい拍手が沸いた。
「あれはすべての人にとって特別な瞬間だったのではないか。少なくとも僕の人生においてはそうだった。僕たちはあの瞬間を心待ちにしていたんだから」
弟ドリアンは、試合を終えてそう語った。そして「僕と兄の関係は一言で『完璧』。これまでずっとそうだったように、これからもずっと「完璧」であり続けるだろう」とも。
この兄弟の仲の良さを物語るいくつかのエピソードを紹介しよう。
名門バルセロナの下部組織で育った兄ダヴィッドは、セルビアの名門レッドスター・ベオグラードを経て2017シーズン開幕前に横浜F・マリノスに加入した。一方、レアル・マドリーの下部組織出身の弟ドリアンは2016年からスロベニアの強豪オリンピア・リュブヤナを経て、2017年は同国のラドムリェに機嫌移籍していた。
すると日本へ渡った兄を追うように、2017年6月に弟も来日。いくつかのクラブへの練習参加を経て同年8月に町田に加入。日本の環境に慣れるため、すぐにJ3の鹿児島ユナイテッドFCへ期限付き移籍した。
鹿児島ではなかなか出番に恵まれなかったドリアンだったが、2018年からは町田に復帰。兄と“ご近所さん”になったことで2人の交流はさらに活発となり、横浜FMでダヴィッドが試合に出場する際は頻繁に観戦に訪れていた。時には自分がオフであれば、兄の練習を見学にくることさえあった。
筆者が町田の試合を取材し、ドリアンに再会の挨拶をすると、兄とテレビ電話が繋がっていたこともあった。まさに試合直後だったのだが、彼らはそういう時にも逐一連絡を取り合っていたのだった。
実は直接対決のチャンスは昨年もあった。兄ダヴィッドは2018年夏に出場機会を求めてJ2の大宮へ移籍する。そして大宮加入後初出場&初先発の試合が、同年9月15日に熊谷スポーツ文化公園陸上競技場で行われたJ2第33節の町田戦だった。
しかし、この時は軽い怪我を負っていた弟ドリアンがメンバー入りできず、初の兄弟直接対決はお預けに。熊谷まで観戦に訪れていた弟も、移籍後初出場だった兄も同時にピッチに立てなかったことを非常に残念がっていた。