カオスのコントローラー
「攻撃と守備を分けて考えるのは好きではない。グループとして何ができるか」(シミッチ)
中央へ包み込んで奪い、中央を起点に攻める。もし、中央を支配されてしまえば逆にそこから攻撃できる優位性は相手チームが手にすることになる。その点で、名古屋の包み込むサッカーは諸刃の剣ともいえる。別の言い方をすると、この守備戦術はすでに攻撃なのだ。
実際、名古屋の相手ボールへのアタックはとても速い。ボールホルダーの正面(ボールと自陣ゴールを結ぶ線上)から瞬時にアタックする。前記のとおりサイドハーフは例外だが、ボールへの寄せはいずれにしても速い。ゴールへの最短ルートを塞がれれば迂回するよりない。そして、その迂回ルートは予測しやすくなるので、狙いをつけて寄せる第二アタックがまた速い。さらにプレスバックもある。
ハマったときの名古屋はボール奪取のタイミングが早く、奪う位置も高くなる。第一アタックで奪えなくても、第二アタックでボールを奪えるケースが多く、その第二アタックを主に請け負っているのが“ボール・ウィナー”のシミッチと米本というわけだ。とくにシミッチは、ボールを奪った直後の判断と技術に優れていて、自分もパニックになりがちな状況をクールに捌く。
「ポゼッションしろなんて言ったことはない」(風間監督)
川崎フロンターレを率いていたことから、ボールポゼッションは風間サッカーの代名詞のように思われてきた。現象として否定できないところはあるが本意ではない。少なくとも、いわゆるポジショナル・プレーは風間監督にとって「パズル」にすぎず、今の名古屋の攻守はもっとカオス的な様相を自ら呼び込もうとしていている。意外かもしれないが、マンチェスター・シティよりもライプツィヒのほうが近いのではないかとさえ思える。
混沌の中に活路を見出すのは、ブラジル人のいわば「お家芸」。クールでファイター、テクニシャンで武闘派。シミッチはカオスのコントローラーとして、うってつけの選手だろう。
(取材・文:西部謙司)
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