全ては日々の準備から
こうしたメンタリティも、ギリギリのシュートを弾き出す技術も、すべて日々の準備によって磨き上げられた自信がなければピッチ上で発揮することはできない。チョン・ソンリョンのGK道は、全てが「準備」から繋がっている。
「食生活は気にしているし、試合へのイメージトレーニングなどをすごく大事にして、そういうルーティーンも自分の中にあるので、それが個人的に大事だと思っている。僕は同じ失点、同じ失敗がすごく嫌いなので、そういうのは改善していけば、少しずつ良くなる。
例えば食べ物1つをとってもそうだし、夜の試合なら午前中に絶対ジョギングをして軽く汗を流すことをルーティーンにしている。午後ミーティングをしてスタジアムへ行く時も会場入りする前にバスの中で目を瞑ってイメージトレーニングをするのが僕のルーティーンになっているんだ」
ピッチ外での日常生活から、日々こだわりを持って臨む練習での改善、そうしたものを通して自らを研ぎ澄まし、試合に挑む。その繰り返しがチョン・ソンリョンを強くしてきた。「勝っていようが、負けていようが、ゴールしようが、ゴールされようが、常に冷静さを忘れない」ことこそが、34歳の守護神が胸に秘めるGKとしてのポリシーだ。
韓国ではKリーグ優勝やACL制覇を成し遂げ、韓国代表としてワールドカップも経験した。日本に渡ってJリーグ連覇の立役者となり、昨年はJリーグベストイレブンにも選ばれた。それでも「ビルドアップのところでもう少し自信を持ってパスができれば」と、改善すべき点は尽きることなく頭に浮かんでくる。湘南戦も無失点で抑えたが、「失点をしないのがGKの最低限の任務」と満足は一切ない。
「今日もいいところはあったけれど、まだもったいないところもあった。また今日が次の試合につながればいい。自信を持って最大限の準備をして、みんなで失点を少なくしたい」
現状に満足せず、ストイックに自分と向き合い、常に前向きに一歩ずつ地道な準備を重ね、自信とともにピッチに立つ。その繰り返しだ。求道者たるチョン・ソンリョンからは前進への意欲が溢れる。川崎Fのゴールを守る“龍”の、勝利を追い続ける日々に一切の妥協はない。
(取材・文:舩木渉)
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