「出ていく選手も多いだろうが…」
戦術的に整理されたプレスで、パスの出しどころを失ったユーベからボールを奪い、アヤックスは一方的に攻撃を続けた。ヴォイチェフ・シュチェスニーの奇跡的なセーブやピャニッチの必死のカバーでなんとか均衡を保っていた相手に対し、先制ゴールのお株を奪うようにコーナーキックで仕留める。決めたのは、C・ロナウドを逃してしまったデ・リフト。このこともまた印象的だった。
国際的なスターは買ってこれないが、技術の高い選手を見出し、フィジカルを鍛えて一流の選手に育てる。そして、組織としてどういうサッカーを展開するべきかというモデルが、練習を通し各選手に浸透している。これが、アヤックスというクラブの強みだ。
「これは我われの哲学である。今季が終われば出ていく選手も多いだろうが、充実した下部組織やスカウト網から新たな戦力を発掘するのみだ」
テン・ハーフ監督は、自信を持って言い切っていた。
現時点でマンチェスター・シティとトッテナム・ホットスパーとの決着はついていないが、オランダ人記者の中からは「(ジョゼップ・グアルディオラ監督のいる)シティなどとの対決は楽しみじゃないですか?」などという質問が飛んでいた。それだけ、今のチームの完成度には自信と期待が高まっているということだ。マドリーとユーベを立て続けに破れば、もはやフロックとは言えないだろう。
翻って、CL制覇の野望がまたも絶たれたユベントス。C・ロナウドを約1億2000万ユーロ(約150億円)もの移籍金で引っ張ってきたはいいが、見合う成績は出なかった。もっともC・ロナウドが期待外れだったわけではなく、むしろ彼自身は結果を出している。ただここにきて、チーム全体としての不出来の方が目立ってしまった。
大枚を叩いて戦力を揃えても、それで強力なチームとなるわけではない。メガクラブとして振舞うことに舵を切ったユーベだが、テン・ハーフ監督いわく「本来はマドリーやユーベに選手を引き抜かれる立場」のアヤックスに敗れたこと何かを示唆するようでもある。
「イタリアのクラブはアヤックスのようにはいかない」「我々には選手が故障で欠けていた。これでは良いサッカーはできない」とアッレグリ監督は語っていた。現実的には言葉の通りなのだろうが、『哲学』を堂々と語るテン・ハーフ監督と対照的だったのは否めなかった。
(取材・文:神尾光臣【イタリア】)
【了】